プロローグ~新たな挑戦~下

大久保さん
城ケ崎自然研究路を案内する大久保リーダー

 さて、「歩く」という令和時代の目標は決まった。とはいえ、ただ漠然と歩くだけでは日常と変わらない。私のスマホにはその日の歩数を勝手に計測してくれるアプリが入っているが、それによると毎日だいたい五千歩は歩いているのだ。なかなかのものだなと悦に入ってると、日本人の一日の平均歩数は七千歩だそうで、がっくり。ぐうたらインドアライターの面目躍如の数字だったわけだ。

 「歩く」という日常を「旅」という非日常に変えるためにはどうすればいいのだろう?

 ここは達人に教えを乞うしかない。というわけで友人である日本万歩クラブの事務局長、たぐいまれな馬面のウマ村さん(仮名)に連絡を入れた。

 事務局長の肩書は伊達ではなく、すぐに万歩クラブのリーダーのひとり、大久保貴さんに会うことができた。リーダーとは、例会と呼ばれるウオーキングイベントを企画・運営する万歩クラブの屋台骨ともいえる人たちである。

 大久保リーダー、昭和の薫りただよう渋い老紳士であった。そもそも若かりし頃はゴルフやテニス、自転車と精力的に体を動かしてきたスポーツマン。五十の坂を越えてから初めて参加した万歩クラブの山の手一周ウオークもまるで平気だったという。ぐうたらインドアライターとは根性も基礎体力も違うのである。

 「でもね、歩くことは誰でもできるからさ」と勇気となる言葉をいただき、ウオーキング愛にあふれたお話を聞いていく。やがて、なんとなく万歩旅のキモがわかってきた。

 体力ではない。テーマとイメージ、“発見”に必要な敏感なアンテナ―これである。

 万歩の例会はリーダーたちのそれぞれの趣味を生かし、工夫されたコース設定が何よりの魅力だ。鉄道沿線めぐり、文学散歩、江戸情緒散策、里山歩き…道という日常の風景が、好き者たちの視点で切り取られることによって、鮮やかに色を変えていく。

 見過ごされる風景のなかにも歴史があり、そこで積み重ねられてきた人々の思いがある。歩きながらそれを感じ、発見することが万歩旅なのではないだろうか。

 大いに腑に落ち、前向きな気持ちになったとき、大久保リーダーが言った。

 「じゃあ、手始めに世界一の山にでも登ってみますか?」

 え……!?

(まいた・ようへい=芸能ライター)