三崎口駅―小網代の森 前編

小網代
黒崎の鼻。草むらを抜けると絶景が

 ビーチか岩場かと聞かれれば、断然岩場派である。少年時代は潮だまりでうごめくカニやイソギンチャクを発見するだけで、とんでもなくテンションが上がっていた。大人になり息子と一緒に海に行くようになってからもそれは変わらなかったので、そういうタチの人間なのだろう。

 今回の万歩道のテーマは海と森。神奈川県は三浦半島の西南部、三崎口から相模湾に面した海岸「黒崎の鼻」を経て、小網代の森へと向かう十三キロ強のコースだ。万歩クラブの例会ではなく、事務局長のウマ村氏が自然歩きに強い宮川隆彦リーダーに声をかけてくれ、ご友人の岩淵勝弘氏とともに四人での道行きである。

 三崎口の駅を出て少し歩くと、視界が一気に開けた。雲一つない空の下に広がるのは延々と続くキャベツ畑だ。さえぎるものは一切なく、青と緑に空と大地が切り分けられている。なつかしい景色になんだか心がホッと落ち着く。北海道は十勝(朝ドラ『なつぞら』で広瀬すずちゃんが牛の乳しぼりをしていたあの場所だ)出身の私にとって、地平線は原風景のようなものだ。ビルの谷間を車や人が行き交う舗道を歩くのではなく、開けた視界のなか土の道を行くのは、それだけで清々しい気持ちになる。

 キャベツ畑を抜け、草むらをぬう小道を海に向かって降りていくと、最初の目的地・黒崎の鼻に到着。なぜ「鼻」なのか地名の由来は知らないが、相模湾に突き出た姿はいかにも鼻のようだ。丸みを帯びたなだらかな岩場でおばちゃんが貝を採っている。岩場好きの血が騒ぎ、潮だまりを覗きこむと小さなヤドカリを発見。「ヤドカリいた!」と手のひらに乗せて得意げに見せびらかすと、「子供か!」とウマ村氏に失笑される。

 鼻の突端は小高い丘で、富士山も伊豆大島も見渡せるパノラマビューが広がる絶景。腰くらいの草むらが揺れ、風の形を浮かびあがらせる。

 丘を下ると黒い岩場と砂浜が現れる。宮川リーダーが「砂鉄なのかな?」と黒い砂を手にとりつぶやく。ここは『龍馬伝』『義経』などの大河ドラマや映画『テルマエ・ロマエ』『るろうに剣心』などのロケ地として利用されたそうだが、なるほどこの黒々とした岩場と浜は、時代や国を超越した異質な空間にも思える。

 地平線に広がる畑、またたく間に童心に帰る岩場…ちょっとしたタイムトリップを体験した前半戦だった。

(まいた・ようへい=芸能ライター)