熊野古道中辺路 上

熊野古道
大斎原

 万歩道、連載八回目にしてついに遠征である。しかも歩くのは世界遺産でもある熊野古道!もう“てくてく”なんてレベルではない。後白河法皇や後鳥羽上皇が何度も詣でた道。歴史そのものを体感する旅だ。ウオーキングを始めて半年足らずでこの僥倖。万歩クラブさまさまだ。

 田中哲治リーダーが率いる今回の例会は、三日間で熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)を巡る中辺路ルート。まずは熊野本宮大社の霊域の出発点でもある発心門王子にお参りし、万歩の旅は始まった。

 舗装された田舎道をしばらく行くと水呑王子跡がある。そこから道は山の中へ。周囲は細く真っすぐな杉が針のように刺さっている。車窓からは緑鮮やかなブロッコリーが集まったようなこんもりとした森に見えたから意外だった。見知った北や東の地域の森に近い。

 和泉式部が熊野権現のお告げを聞いたという伏拝王子跡を過ぎると森も深くなり、別の顔を覗かせる。いよいよ熊野古道といった趣である。

 パラパラと降っていた雨脚が強まり、かっぱを羽織る。石畳をたたく雨音、葉を伝って地面に落ちる水滴。水が森を活性化させ、濃厚な生の匂いが漂う。自然に気持ちが浄化され、心が整ってくる。

 歩き始めてから約二時間半、ついに熊野本宮大社に到着した。外国人観光客が八咫烏を乗せた黒いポストの前に集まっている。サッカー日本代表のシンボルとして有名な三本足のカラスは熊野三山の導きの神鳥でもある。今後の万歩旅で良き場所、出会いへと導いてもらえるよう、私もお守りを購入する。

 神門をくぐると、檜皮葺の古色あふれる社殿が連なっている。全国三千以上ある熊野神社の総本山なのだが、大仰な感じはみじんもなく、ひと言で言うと、渋い。四殿それぞれ違った神がまつられ、しかも同時に仏の姿も持っているのが、日本っぽくてすごくいい。さすが神仏習合の本拠地・熊野だ。

 参拝をすませ、かつて本宮があった大斎原へと向かう。水田を貫く道の向こうに日本一の大鳥居が見えてきた。歩いていて気づかなかったが、ここは中州で,一八八九(明治二十二)年の大洪水で流されるまでは、多くの社殿が立ち並び、たいそう華やかだったそうだ。対して今は、ただの原っぱ。まったくなんにもない。熊野の原点ともいえる大斎原が“無”や“空”を感じさせる場所だったのは、驚きと同時に、なんだかとても腑に落ちるのだった。

今回1万6828歩 距離約12km

(まいた・ようへい=芸能ライター)