熊野古道中辺路 中

熊野古道
ゴトビキ岩

 熊野古道中辺路を行く万歩道、二日目は朱塗りの社殿が鮮やかな熊野速玉大社への参拝から始まった。境内には樹齢千年を超えるオガタマノキの大樹があり、幹全体が緑に苔むしていて、とてつもなく美しい。漂う霊的な雰囲気、これぞ神木。思わずこの木にも手を合わせてしまう。

 十分ほど歩き、神倉神社の入り口に到着。ここから石段を上った神倉山の山頂に神社があるのだが…この石段がタダモノではなかった。五百三十八段という段数はもちろん、幅は狭く、ゴツゴツとして足場も悪い。段差にはばらつきがあり、急峻。階段を上るという感覚はみじんもない。これはれっきとした登山だ。

 私は先頭を行く田中哲治リーダーのすぐ後ろを歩いていたのだが、振り返ると急斜面を万歩クラブのメンバーが連なっており、自分がコケたらみんなも巻き込んでしまうという恐怖に足がすくむ。そんな私の隣を軽やかに上っているのは、今回の参加者最年長の太田弘子さん。齢八十を超え、例会参加も最多を誇るレジェンドメンバーだ。「みんなと違って歩幅が狭いから大変よぉ」などと言いながらもスティックを巧みに使い、小さな体でひょいひょいと上っていく。これは負けられないと元気も出る。

 二十分かけて石段を上りきり、ようやく神倉神社に到着。本殿にはゴトビキ岩と呼ばれる巨岩がご神体としてまつられている。その光景がとんでもない。しめ縄を巻かれた巨岩が社殿を押しつぶさんとしているのだ。ゴトビキとはヒキガエルのことだそうだが、言われてみるとそう見えなくもない。これほどまでに巨大な岩がなぜ唐突に山頂に存在するのか、シュールすぎて意味がわからないが、人知の及ばぬ圧倒的な神性を感じてしまうのは理解できる。

 昼に神倉神社をたち、阿須賀神社、浜王子と参拝し、海沿いの道を高野坂登り口を目指して歩く。波打ち際を二両編成の小さな列車が走り去っていくのが見える。海との距離は十メートルと離れていないから、乗ればさぞ気分がいいだろう。

 高野坂は上り下りで四十分ほどの短いコースだが、緑濃く、往時の面影を残したいかにも熊野古道らしい野趣あふれた道。しかし、苔むし濡れた石畳は見た目は美しいが歩くには厄介だ。滑る滑る滑る。

 その中腹にある金光稲荷神社。鳥居の向こうでわれわれを出迎えてくれたのは一匹の黒い猫だった。こんなところになぜ猫が?いぶかる私と目が合うや、黒猫は森の中へと消えていった…。

 まさか、こやつも神の使い?

今回2万155歩 距離約15km

(まいた・ようへい=芸能ライター)