熊野古道中辺路 下

熊野古道
飛瀧神社と那智の滝

 熊野古道を行く万歩道もいよいよ最終日。これまでの二日間は雨の予報に反して大して降らなかった。本日の予報も雨。前夜もかなりの雨だったが、朝になると雨は上がっていた。晴れ女(男)がいる?

 本日は浜の宮王子跡である熊野三所大神社への参拝からスタート。隣にある補陀落山寺へと足を延ばす。ここは観音のすむ南方海上の浄土を目指し、小舟で沖へ出る捨身行「補陀落渡海」が行われていた寺で、境内には復元された渡海船も飾られている。四方を鳥居で囲まれた船内には人ひとりが入るといっぱいになりそうな屋形があるのみで、これで海に出ていけるのかと不思議に思うくらいの小ささ。生きて帰ることはないのだからつまりは棺おけのようなもので、これで十分とある頭ではわかるが、同時に命を捨てて慈悲を体現するという行為のすさまじさを実感する。

 そこから川沿いの道を歩き、那智山へと入っていく。ここで問題が発生。昨夜の豪雨の影響で道に沿っていた小川があふれ、行く手をふさいでいるのだ。田中哲治リーダーの判断で、このルートは断念となる。

 バスで大門坂入口まで移動し、いよいよ旅の最後の目的地、熊野那智大社へと大門坂を上りはじめる。樹齢数百年の杉の巨木が二百六十七段の石段の両脇に並ぶ素晴らしい道である。アリの行列のように大勢が列をなして参詣し「蟻の熊野参り」と呼ばれた時代の人たちもきっと、同じ景色を見ながらこの道を歩いたのだろう。

 一時間かけて上りきると、那智大社までさらなる石段が待っていた。しかし、周囲には土産物屋が立ち並び、雰囲気ががらりと変わる。二十分後、熊野三山最後となる熊野那智大社に到着。参拝し、ようやく熊野巡礼の旅も終わりかと思いきや、この先にとてつもないパワースポットが控えていた。向こうに見えるのは落差百三十三メートル、日本三名瀑の一つで、一段の落差なら日本一の那智の滝である。

 山道を三十分ほど下り、飛瀧神社へ。那智滝自体がご神体だから本殿はない。境内から間近に滝を見ることができるのだが、轟音と水しぶきに圧倒される。目がくぎづけになり、離すことができない。しばし呆然と眺めていると、まるで竜が天に昇っていくように見えてくる。これは飛瀧というより飛龍だ。

 三日間の熊野古道の旅を通して、宗教や信仰とは離れた神的なものに何度も触れた気がする。熊野は神々とのランデブーポイント―そんな下手くそなコピーが頭に浮かんだ。

今回1万769歩 距離約8km

(まいた・ようへい=芸能ライター)