寅さんの聖地を訪ねて

平成を三十年生きてきた。対して昭和は物心ついてから十五年ほどしか生きていない。しかし、懐かしさをもって振り返るのはなぜかいつも昭和なのだ。

 郷愁が似合う時代なのだろう。『懐かしの昭和歌謡』的な番組は今でもよくあるが、『懐かしの平成Jポップ』なんて番組は見たことがない。先日取材した某アイドルグループのメンバーは昭和歌謡が大好きで、よくカラオケで歌うという。「なんか懐かしいんですよね」と語る彼女はもちろん、昭和など一秒も生きたことがない-。

 山田光夫リーダーが提案した「金町駅周辺から柴又へ」という例会は、京成高砂駅を起点に葛飾区を北上していく。遊びながら交通ルールを学べる新宿交通公園、東京理科大学の隣にある葛飾にいじゅくみらい公園、そして東京二十三区内では最大規模を誇る水元公園と、前半は公園尽くし。ぐいぐいと進む山田リーダーは公園の敷地面積などやけに数字に詳しい。聞くと、かつて高校の数学教師だったそうで、なるほど納得。葛飾といえば下町のイメージしかなかったが、自然を楽しめる場所もたくさんあるのだと知った。

 それから江戸川に出て、土手の上を歩く。映画『男はつらいよ』で必ずといっていいほど登場したあの土手だ。頭の中を渥美清の歌声が響く。車寅次郎-この人はまぎれもない昭和のヒーローのひとりだ。

 矢切の渡しを通りすぎ、土手を離れ、帝釈天に向かう。その途中にあるのが寅さん記念館だ。入るとすぐに実家の団子屋「くるまや」のセットが再現されており、映画の世界に引き込まれていく。子供の頃、家族と一緒にテレビでぼんやりと見ていただけなのに、名場面映像はやはり無性に懐かしい。物語ではなく、劇中の空気感や人間模様がどうにも自分の中にある昭和人の琴線を刺激するのだ。

 記念館を出て、帝釈天に。ここでも笠智衆が演じた御前様や寺男の佐藤蛾次郎の顔が浮かんでくる。景色が記憶を呼び覚ます。これぞ聖地巡礼の醍醐味か。

 逆に「くるまや」があった参道は観光客向けにきれいに整備されており、映画のイメージとは違っていたが、それはそれで時の流れを感じ、面白い。

 令和元年の今年は五十周年ということで新作も公開される。初めて映画館で『男はつらいよ』を観てみようかな…柴又駅の前に立つ寅さん像を見ながら、ふと思った。

今回2万728歩 距離約13km

(まいた・ようへい=芸能ライター)