はるかな秋の尾瀬(前編)

 熊野古道以来の万歩メンバーとの遠征。今回は秋の尾瀬を歩くという例会だ。朝早く新宿に集合し、貸し切りバスで尾瀬へ。集団でのバス移動というだけで子供の頃に戻ったようにワクワクする。もちろん脳内では当時合唱した「夏の思い出」が鳴り響いている。

 尾瀬には一度も行ったことがないけど、なぜか懐かしい感じがするのはこの歌のせいだ。故郷の北海道で見た水芭蕉がいつの間にか尾瀬の風景へとすり替わっているのだ。歌ってスゴい。バスで四時間の道中も景色を見ながら楽しもうと思っていたのだが、いつの間にか爆睡。目が覚めるとスタート地点の大清水駐車場に到着していた。

 バスを降りると、ピンと張った冷たい空気に包まれ、眠気も吹っ飛んだ。夏の山を歩くのとはまるで違う心地よさ。山道の脇を流れる谷川の水音を聞きながら足どり軽く登っていく。頭上を覆うのは黄色がかった緑葉たち。まだ紅葉には早いのだろう、赤い葉はわずかだ。徐々に大きくなっていった渓流の音が、気がつくと聞こえなくなっている。標高一、七六二㍍の三平峠だ。ここから目指す尾瀬沼に向かって、ゆっくりと下っていく。

 前方から来た人が「この先、滑るから注意して」と警告してくれる。つい先ほど転倒して、動けなくなった人がいるそうなのだ。しばらくしてプロペラの音が上空から響いてきた。青い空の向こうでヘリコプターが何かをつり下げているのが見える。まさかケガ人を救助しにきたの?…と思ったら、建築資材を運んでいるのだった。

 足もとの木道も、こうして一本一本運び込まれたのだろう。この美しい自然を保全していくために、どれほどの労力と資金が必要かを考えると、有料トイレに硬貨を入れることにも抵抗がなくなる。

 尾瀬沼に到着。湖面が凪いでいれば燧ケ岳が映って、たいそう美しいそうだが、さざ波が立っており、その光景を見ることはかなわなかった。燧ケ岳を横目に真っすぐな木道を進み、この日の宿泊先の山小屋へ。長蔵小屋は大正時代から続く尾瀬で最も古い山小屋だ。狭い二段ベッドや談話室…今度は学生時代に泊まったユースホステルを思い出し、また郷愁にひたるのだった。

今回1万1633歩 距離約7.5km

(まいた・ようへい=芸能ライター)