はるかな秋の尾瀬(後編)

露にぬれた木道が黄金色の草紅葉を真っすぐに貫き、その向こうに緑の森がぼんやりと

霧に煙っている…まるで印象派の風景画の中に迷い込んだかのようだ。忙しない日常を忘れさせてくれる神秘的な自然に、ひたすら感動し、ため息しか出ない。

 早朝六時半に山小屋を出発した私たちは尾瀬沼を横目に歩を進め、尾瀬の湿原へと入っていった。台風の接近を警戒して旅行をキャンセルした方々も多いようで、私たち以外に人影はない。田部井保夫リーダーによると、人気観光地の尾瀬がこれほどすいているのはめったにないことだそうだ。三百六十度どこを見回しても人の姿が視界に入らず、絵の中に入ったような不思議な気分を満喫できる。

 それにしても、初めて足を踏み入れた湿原とは、なんと美しく趣深いのだろう。初夏は白い水芭蕉、夏は黄色のニッコウキスゲ、そして秋は草原が黄金色に輝く草紅葉…。季節ごとにその顔を変える尾瀬にリピーターが多いのもうなずける。今回一緒に歩いた万歩メンバーさんたちも何度も訪れている方がほとんどだった。皆の話を聞きながら、今度は水芭蕉の季節に家族で来ようと心に誓う。「その時期は観光客で渋滞して、こんなにサクサク歩けないけどね」というリーダーの言葉は少し気にかかるが…。

 霧が晴れ、分厚い雲をくぐったやわらかな光が降りそそぐ。うねったような草原と空を覆う雲の陰影…これは渦を描くゴッホの筆致だ。写真に収めるが、目の前の景色とはどこか違う。やはり、この目に焼きつけることにしよう。

 途中、信じられないくらいの大荷物を背負った歩荷さんとすれ違った。ただ歩いているだけでもキツいのに、彼は山を越えてきたのだから恐れ入る。

 約四時間かけて湿原を堪能し、昼休憩のあと山道へと入る。時折、リーダーがクマ避けの笛を吹く。尾瀬に入って以来常に「クマ出没注意」の看板を見かけていたが、幸い(残念?)なことに野生のクマに出合うことはなかった。

 午後二時四十分、鳩待峠に到着。歩数計はとっくに三万を超えている。「疲れたぁ」と笑い合いながら汗を拭き、みんなと記念撮影。その直後、私たちのゴールを待っていたかのように雨が降りはじめた。一気に雨脚は強くなり、土砂降りに。

 あぁ、この雨は歌川広重だ。

今回3万3082歩 距離約21.5km

(まいた・ようへい=芸能ライター)