「いだてん」巡り編

 クライマックスが近づいて、大河ドラマ「いだてん」がますます面白い。特に阿部サダヲさん演じる主人公・田畑政治の暴走ぶりを見ると、こんなハチャメチャな男が実在したのかと驚くとともに、これくらい常識はずれな人物の豪腕がなければ、当時の日本の状況でオリンピックなど招致できなかったのだろうなと納得もする。

 出演者の不祥事に、低視聴率と逆風が続く「いだてん」への応援の意味も込めたウオーキングができないかと考えた。思いついたのが落語の「富久」だ。富くじと火事という江戸の名物をネタにした噺で、主人公の久蔵が火事になった旦那宅と浅草の長屋の間を駆け回る。

 「いだてん」ではビートたけしさんが落語家の古今亭志ん生役で語りを務めるなど落語が重要なモチーフになっている。特に志ん生の十八番「富久」はたびたび登場し、初回から巧妙に張られた伏線は歴代最低視聴率を記録した第三九回(傑作だった!)で見事に回収された。

 志ん生は旦那宅を元来の日本橋から芝に変え、久蔵が長大な距離を一瞬で移動することで笑いをとった。ドラマの中で久蔵が往復したルートは、前半の主人公・金栗四三のランニングコースだった。「いだてん」を巡る道としてはぴったりだ。

 東京タワーを仰ぎ見ながら、芝公園を出発。相棒は方向音痴でおなじみのウマ村事務局長だ。新橋を越えると銀座中央通りに出た。銀座八丁目から一丁目までを突っ切る。周りを飛び交う言葉はほぼ中国語。たぶん今、この周辺は日本人よりも中国人の方が多い。この道を人力車を引きながら「富久」を覚えた若き志ん生も、毎日走った金栗四三も、百年後の銀座がこんなに国際色豊かになるとは想像もしなかっただろう。 

 日本橋を渡ったところでウマ村さんが「近くにおいしいどら焼きが売っているから」と道をそれる。しかし、行けども行けども目指す「うさぎや」が見つからない。出た、方向音痴!グーグル検索の力を借り、ようやく店にたどり着いたときには…どら焼きは売り切れていた。

 久蔵が富くじの一等を当てた椙森神社を参拝し、年末ジャンボの福を祈ったあとは、浅草へ向かって江戸通りをひたすら歩く。やがてスカイツリーが見えてきた。そう、この道は東京タワーからスカイツリーに至る道でもあったのだ。

 ゴールに設定したのは当時の超高層タワー・浅草凌雲閣の跡地。焼き肉屋の壁に描かれた凌雲閣の絵を見ながら、この塔の下で青春を謳歌していた金栗や志ん生に思いを馳せるのだった。

今回1万5093歩 距離約10km

(まいた・ようへい=芸能ライター)