郷愁の大井川鐵道(後編)

 大井川鐵道は千頭駅をはさんでSLの旅から山岳鉄道の旅へと変化する。終点の井川駅までは美しい渓谷をゆっくりと進む「南アルプスあぷとライン」が走っており、心ゆくまで絶景を堪能することができるのだ。

 途中、アプトいちしろ駅から長島ダム駅までの区間は千㍍進むのに九十㍍上るという日本一の急勾配があり、アプト式電気機関車(ギアを嚙み合わせて斜面を上り下りする機関車)を連結し、サポートを受けなければいけない。ギー、ギーという機械音が、「うんしょ、うんしょ」と懸命に押してくれている機関車の声に聞こえて、ほほ笑ましい。

 終点の井川駅で降り、ウオーキングの始まり始まり。井川ダムを過ぎ、すぐに今回の一番のお楽しみ、廃線小路へと入る。ダム建設時の資材搬入駅へ続く廃線部分を整備した遊歩道で、線路の上を歩くことができる。もちろん、頭の中では「フェン・ザ・ナイッ」というベン・E・キングの歌声が響いている。多くの同世代と同様に私の中でも「スタンド・バイ・ミー」は青春映画の傑作で、あんなふうに線路の上を歩いてみたいと憧れていたのだ。

 この不朽の名作以降、少年時代の郷愁を誘う場面としてドラマや漫画で線路を歩くシーンがよく描かれるが、実際にこれを体験できる場所はほとんどないだろう。小さな夢を一つ叶えることができて、歩きながら妙に感動してしまう。そして、一緒に歩いているのが自分の親と同年代の方たちというのがまた、たまらないのだ。

 廃線小路を抜け、山道をしばらく歩くと「夢の吊り橋」が現れる。寸又峡と同じ名だが、ここには誰もいない。渡り始めてすぐに理由が判明した。川の色が濁った灰色で、寸又峡で見た鮮やかなエメラルドグリーンのダム湖とはまるで違うのだ。

 同じ大井川で距離もさほど離れていないのに、自然とは本当に不思議なものだ。そして若者たちよ! 「映え」もいいけれど、スタンド・バイ・ミー気分からの吊り橋も楽しいぞ。

今回9694歩 距離約6km

(まいた・ようへい=芸能ライター)