聖地巡礼 広島へ 前編

 五月である。令和への改元を機に、ひきこもりライターが一念発起で始めたウオーキング連載も丸一年が経過した。われながらいろいろな場所を歩いたものである。もともと一年間の連載という話だったので、そろそろゴール地点を定めねばならないなぁ…などと考えている。

 ただ、その前にどうしても歩いてみたい場所があった。映画「この世界の片隅に」の舞台となった広島である。実は私、この作品のノベライズ(小説化)もしているのだが、現地を訪れたことがない。こういう時期だからこそ、戦時をのほほんと、たくましく暮らしていた主人公すずさんの街を見てみたいなと思ったのだ。

 「この世界の片隅に」は昭和九年から二十一年の広島と呉を舞台に、北條(浦野)すずという女性の日常を淡々と描いた作品だ。こうの史代先生の原作漫画をアニメーション監督の片渕須直氏が映画化。数々の賞を受賞した日本映画史に残る傑作である。

 広島駅に到着。観光案内所を訪ね、片渕監督監修のロケ地マップをいただく。上映から四年たってもなお、聖地巡礼で訪れる人は多い。観光マップと照らし合わせ、おおまかなルートを決める。こうしてあらためて地図で見ると、中心部は五つの川で区切られており、広島は川の街だということがよくわかる。

 まず向かったのは広島城。鯉城とも呼ばれるだけあって、お堀にはたくさんのコイが泳ぐ。板張りの外壁は独特の趣があって、面白い。まばらな人の中、せめて写真だけでもというのだろうか、婚礼衣装に身を包んだカップルが結婚式の記念写真を撮っている。

 広島城を出て本川へ。戦後、家を焼かれた人々がバラック小屋を建て、暮らしていた街がこの川沿いにあった。こうの先生の代表作「夕凪の街 桜の国」で描かれている。桜が彩るがらんとした川岸にその光景を重ねながら、ゆっくりと歩く。

 桜並木が途絶えた辺りを東に入ると旧広島市民球場跡地がある。現在は「ひろしま はなのわ2020」(二十四日まで開催。各種イベントは中止)の会場となっており、美しい緑と花々で飾られ、目に楽しい。

 公園を出て、ふたたび川沿いの道へ。すずさんと夫の周作さんが出会ったT字形の橋、相生橋が見えてきた。その脇に建つ異様な存在感を放つ建物に、足が吸い寄せられていく…。

※四月三日に取材しました。

今回9947歩 距離約6km

(まいた・ようへい=芸能ライター)