尾道~大林監督をしのんで~編

 映画監督の大林宣彦さんが亡くなった。「転校生」や「時をかける少女」など尾道を舞台にした作品には思春期の感受性を大いに刺激され、坂の街の印象とともに強く心に残っている。何より尾道を歩いたばかりだったから衝撃は大きかった。

 「この世界の片隅に」の聖地巡礼で広島の街を歩いたあと、私たちが向かったのが尾道だったのだ。ウマ村さんも私も大林監督の作品を青春真っただ中に体験している世代である。もう一カ所足を延ばそうとなったとき、それが尾道に決まるのに時間はかからなかった。

 尾道駅を出ると目の前に瀬戸内の海が広がっていた。いや、広がっていなかった-の方が正しいか。向島の造船所が視界をふさぎ、その奥の方にも島影が見える。水平線のない海を見たのは初めてだった。

 尾道には平安時代初期に建てられた光明寺など歴史のある神社仏閣が多く、それらを巡る約二㌔ほどの道が「古寺めぐり」コースとして石畳で整備されている。ぜひとも行ってみたかった御袖天満宮も入っており、とりあえずはそのルートを歩くことにする。

 一人が通るのがやっとの狭い道を抜けると階段があり、それを上りきるとまた狭い道。塀の上にも下にも墓が並び、石畳の向こうを猫が歩いていく。寺、坂、猫が、順繰りに現れては去り、現れては去る。これが尾道か。それぞれ個性豊かで趣のある寺社ばかり。しかも、とても距離が近いのでめまぐるしく楽しい。

 千光寺山の中腹にある千光寺をお参りし、志賀直哉や林芙美子など尾道ゆかりの文学作品の碑が刻まれている「文学のこみち」を通って、山頂の千光寺公園へ。「おのみち俳句まつり」なるイベントが開催されていたので、尾道水道を見下ろすパノラマの絶景を見ながら一句ひねる。映画の街のみならず、尾道は文学の街でもあるのだ。

 帰りはロープウエーで優雅に下り、さあ御袖天満宮だ。ここの境内に至る五十五段の石段こそが「転校生」で一美(小林聡美)と一夫(尾美としのり)が転げ落ち、入れ替わってしまったあの石段なのである。

 見下ろすとかなり高く、さすがに転校生ごっこは無理か。しかし、数多の入れ替わりモノの原点ともいうべき場所に立ち、感慨深い。もし「転校生」がなかったら「君の名は。」だって生まれなかったかもしれないのだ。大林監督を偲びつつ、今夜は久しぶりに「転校生」を見ようかな。

※四月四日に取材しました

今回1万3606歩 距離約8.5km

(まいた・ようへい=芸能ライター)