ステイホームの最終回

 歩いているとき、私の思考は飛んでいる。風に舞う花びらのように、自由気ままに、あちらこちらとりとめもなく…。

 日々の暮らしの中でそういう時間は意外となかったりする。人はどうしたって何か目的を持って行動しちゃうからだ。たとえ仕事ではなくても、テレビを見ていたとしても、ゲームをしていたとしても、趣味に興じていたとしても思考の方向性は定まってしまう。風呂や布団の中に入っているときには思考に浸ることはできるのだが、それは己の器から出ることはなく、自由に羽ばたいたりはしない。

 歩いているといろいろな刺激が飛び込んでくる。目に映る景色、肌を撫でる風、聞こえてくる音…。それらが私の思考を、「私」という小さな器から連れ出してくれる。普段思ってもみないようなことがパッと心に浮かび、その思考を頭の中で転がし、楽しむ。それが面白い。

 一年間にわたり、いろんな場所をてくてくと歩いてきた「万歩道」もこれでおしまい。最終回ということで、自分にとっての「歩く」をつらつらと考えたのだが、思い至ったのは意外にもそんなことだった。

 実は最後のウオーキングは、この一年で自分がどれだけ(体力的にも精神的にも)成長したかを試すために、幻の東京五輪マラソンコース四二・一九五㌔を歩くつもりだった。しかし、国民が一丸となって新型コロナの感染爆発を防いでいる昨今、時勢にそぐわない企画ではないのかとの編集者オニタ氏の助言もあり、断念。家でちまちまと原稿を書いている。

 とはいえ、ウオーキング自体は「三密」とは対極にあるものだと思っているので、ちょくちょく歩くようにはしている。最近はサイクリングとウオーキングを合体させたりもして、なかなかアクティブに体を動かしている。家の近所だけだと飽きてくるので、まずは自転車で数㌔ほど移動し、そこから歩きはじめるのだ。

 昨日は等々力緑地までサイクリングし、そこから多摩川沿いを二子玉川まで歩いた。自転車で八㌔、ウオーキングで六㌔。約二時間、心も体も楽しい小さな旅は、気分転換には最高である。川べりで野球やサッカーに興じる子どもたちを見ると、草野球に明け暮れていた小学生時代を思い出す。いくらステイホームといえども家でゲームばかりはしていられない。子どもとはそういうものなのだ。

 新型コロナのせいで万歩クラブの例会が自粛になり、終盤はメンバーさんたちと一緒に歩けなかったのが心残りではある。だが、いずれは例会も再開するだろうし、そのときはぜひとも参加したいと思っている。

 みんなで歩くと、一人で歩くのとはまた違う楽しさがあるのだ。もしかしたら、このエッセーを読んでいるあなたとも一緒に歩く日が来るかもしれない。そんな夢想をしながら、ひとまず筆を置くことにしよう。

連載56回で歩いた合計

67万3121歩 距離約437km

(まいた・ようへい=芸能ライター)