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発掘!オリジナル攻略

12月

最終回 ~3 度の重音を弾きこなすには~
〈人形の夢と目覚め〉エステン作曲『新選ピアノ名曲120初級(P.4)』収録

最終回はT.エステン(1813-1870)作曲の〈人形の夢と目覚め〉です。基本的なテクニックが絶妙に組み合わされて、各部分の性格が明確になっているだけでなく、ストーリー性も豊かな曲です。ハ長調で比較的譜読みはしやすいはずですから、スラー、スタッカートなど音符以外の記号をよく読み込んで、表現力を磨いてください。

  • 1.タイトル、速度標語、作曲家、形式から曲の様式を把握する。
  • 2.音型やリズム、和音から理論的に表現を考える。
  • 3.ほしい音を出すための指や手首、腕の使い方を決めて、練習の指針にする

それでは、攻略法にしたがって順にみていきましょう。

各部分のイメージをふくらまそう(様式)

6曲からなる《子どもの情景Op.202》の第4曲。19世紀中頃にたくさん作られた性格的小品のひとつで、発表会の定番曲です。
エステンはドイツのピアニスト兼作曲家。ピアノ教師として有名ですね。〈アルプスの鐘〉〈アルプスの夕映え〉などの小品でもよく知られているように、サロン演奏用の性格的小品をたくさん作曲しました。
曲は4つの部分に分かれ、①人形の子守歌、②人形の夢、③人形の目覚め、④人形の踊りと表記されています。部分ごとに拍子も曲想も変化します。女の子が人形に子守歌をうたっているうちに、いつのまにか自分が寝てしまい、人形の夢をみる……これは解釈のひとつですが、このように場面を想定したあと、さらに各部分のイメージを具体的にふくらませて表現に生かしてみましょう

想いを各部分の対比で表現しよう(理論)

①はのドミソ型の伴奏と3度の重音によるなだらかなメロディーが特徴です。左手にA♭音が出てくる小節の和音はⅣの借用和音で、一瞬短調のようなニュアンスになります。女の子が眠りに入る様子を表現しましょう。
②はで伴奏の刻みが細かくなり、単音のメロディーが大きく動きます。強弱を工夫し、レガートでなめらかに演奏してください。
③は3小節だけですが、鋭いリズムと分厚い和音からなり、唯一ffが指示されています。ペダルを使ってファンファーレのように華々しく弾き、次の部分につなげてください。
④はになり拍による切迫感が強まるだけでなく、スタッカートが多用されて歯切れもよくなります。伴奏の2、4番目の8分音符が重くならないように注意し、メロディーは1拍目に軽くアクセントをおいて、躍動感のある演奏を心がけましょう。

アルペジオを上手につなぐには(カラダ)

3度の重音は音を同時に出すのが難しいですね。以下のように練習してみましょう。
まず指先を鍵盤にそっとのせます。鍵盤は下げません。指先を水平に揃えるためです。
次に腕全体で鍵盤を底まで下げます。同時に音が出るように気をつけてください。手首を柔らかくしておくことがコツです。
最後に手首を上げながら鍵盤を上げます。次の音に移る瞬間まで指先が鍵盤に触れている状態が理想です。次の音と重なるくらいのイメージをもちましょう。

●まとめ

「発掘!オリジナル攻略法」、最後までお読みいただきありがとうございました。「曲に取り組むための第一歩が踏み出しやすくなった」、「生徒さんの曲への取り組み方がスムーズになった」など、何かよい変化は起こったでしょうか?

11曲を例にここまでお話ししてきましたが、楽譜(暗号)を解釈(解読)するための3つの柱である「様式」「理論」「カラダ」の基礎アイテムが、かなり揃ったはずです。参考までに連載でお話しした基礎アイテムだけ、図にまとめてみました。たった11曲、しかもそのポイントだけでも、すでにこんなにたくさんの基礎アイテムを手に入れたことになります。

あとは連載でご紹介できなかった『新選ピアノ名曲120初級』の曲から重要なものを優先して使っていただければ、ピアノ演奏に必要な基礎アイテムはおおよそ揃うはずです。というのも上級の曲は、これらの基礎アイテムの組み合わせが複雑になっているだけだからです。どんな難曲でも、これらの基礎アイテムに分解し、再構築できるようになれば、もう上級者の仲間入りです。

ぜひこの連載を踏まえ、オリジナル攻略法を編み出してください。解読の柱を変えていただいてもよいですし、より洗練してくださっても構いません。大切なことは独自の攻略法を編み出すことです。生徒さんにもそのことを伝えてあげて、レッスンに生かしてみてください。

黒田篤志 くろだ・あつし

1973 年生まれ。早稲田大学修士課程修了。日本アマチュアピアノコンクール7位入賞。出版社にて楽譜と書籍の編集を担当。現在小山市で、大人のピアノ教室“Lento レント” を主宰するかたわら、フリーの編集者、ピアニストとして活動中。
http://ameblo.jp/pianote0519/

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11月

No.11 ~アルペジオを上手につなぐには~
〈エリーゼのために〉ベートーヴェン作曲『新選ピアノ名曲120初級(P.88)』収録

10曲目はL.v.ベートーヴェン(1770-1827)作曲の〈エリーゼのために〉です。音楽を効果的に表現できる、テクニックと曲想がよくマッチした曲です。その妙技を味わいましょう。調性はイ短調。途中でヘ長調に転調しますから、調性の組み合わせにも気を配ってください。

  • 1.タイトル、速度標語、作曲家、形式から曲の様式を把握する。
  • 2.音型やリズム、和音から理論的に表現を考える。
  • 3.ほしい音を出すための指や手首、腕の使い方を決めて、練習の指針にする

それでは、攻略法にしたがって順にみていきましょう。

形式に込めた想いを想像しよう(様式)

1810年に作曲された「バガテル」です。「バガテル」はピアノ小品のジャンルのひとつで、19世紀に流行した性格的小品のはじめと言われています。タイトルは、ベートーヴェンが愛した女性の名前からつけられたという説が有力のようです。
ベートーヴェンは古典派からロマン派初期に活躍しました。古典派の作曲家が簡潔な形式美を目指していたのに対し、ロマン派の作曲家は個人の感情を豊かに表現することを目的にしました。ベートーヴェンはその先駆けとなった作曲家です。
形式は①②①③①のロンド形式です。何度も反復される主題部①と、その間に現れる挿入部②③からなる構成が特徴です。恋をすると心が激しく揺れ動きます。行ったり来たりする想いは苦しく切ないもの。それが反復で表現されていると想定しながら、演奏してみましょう。

想いを各部分の対比で表現しよう(理論)

曲はの3拍目から始まります。4拍子の1拍目になりがちですから、気をつけましょう。
アルペジオを主体とした第①部は、波打つ流れを滑らかに表現します。右手と左手のつながりを大切にしてください。
付点のリズムと細く激しい動きからなる第②部は、躍動感を表現しましょう。付点のリズムは、32分音符を短めに弾くと効果的です。ヘ長調に転調していることもポイントになります。フラットが増えると、音楽が暖かくなると感じる方もいるようです。
左手の同音連打で始まる第③部では、恋の焦燥感を表現しましょう。速まった鼓動を刻みで表すような感じです。強く弾きすぎるとうるさくなるので注意してください。なお、強弱記号の指示にはしっかり従いましょう。

アルペジオを上手につなぐには(カラダ)

第③部にあるアルペジオの連続。基本の奏法のひとつです。第77小節を例にします。まず9つある音を3つと6つに分けます。
それぞれをⅰとⅱとしましょう。ⅰとⅱはポジション内で弾けるので個別に練習します。次にⅰとⅱをつなぎます。ⅰの第3指はしっかり弾いて腕の重みがある程度かかっていることも感じてください。第1指は第3指のあたりまで寄せてきます。
最後にⅱに瞬間移動します。そのとき、手の向きをなるべく変えないでください。ⅰとⅱをレガートでつなげないことがコツです。

「次回はいよいよ最終回。エステン作曲の〈人形の夢と目覚め〉をご紹介します」

黒田篤志 くろだ・あつし

1973 年生まれ。早稲田大学修士課程修了。日本アマチュアピアノコンクール7位入賞。出版社にて楽譜と書籍の編集を担当。現在小山市で、大人のピアノ教室“Lento レント” を主宰するかたわら、フリーの編集者、ピアニストとして活動中。
http://ameblo.jp/pianote0519/

10月

No.10 ~両手を滑らかにつなぐには~
〈アリエッタ〉グリーグ作曲『新選ピアノ名曲120初級(P.84)』収録

9曲目はE.H.グリーグ(1843-1907)作曲の〈アリエッタ〉です。三声体を基本にしていて、内声のアルペジオを左手と右手が担当します。各声部のよいバランスと内声の滑らかさが要求されます。調性は変ホ長調。前回の#に替わって♭が3つになります。難しいので譜読みに気をつけてください。

  • 1.タイトル、速度標語、作曲家、形式から曲の様式を把握する。
  • 2.音型やリズム、和音から理論的に表現を考える。
  • 3.ほしい音を出すための指や手首、腕の使い方を決めて、練習の指針にする

それでは、攻略法にしたがって順にみていきましょう。

曲集における役割を想像しよう(様式)

1867年に作曲された《叙情小品集》第1集の第1曲です。《叙情小品集》は第10集(1901年)までありますが、その最後の曲〈余韻〉にも〈アリエッタ〉の旋律が使われています。つまり全10集ある《叙情小品集》の最初と最後を飾る音楽です。グリーグはロマン派後期のノルウェーの作曲家。《ピアノ協奏曲イ短調》や《ペール・ギュント》などでよく知られていますね。小柄な人だったらしく、大きい手を必要としないピアノ小品が多いのも魅力です。
形式は、もっともシンプルな二部形式。①第1~12小節、②第13~23小節です。最後の第23小節には、第1小節がコーダとして使われていますが、おそらく「ここから叙情小品が織りなす物語が始まる」とグリーグは言いたかったのではないでしょうか。決意表明のようなものがコーダからは感じられます。

フェルマータをうまく表現しよう(理論)

下声と内声のアルペジオに上声が支えられながら曲が進むのが特徴です。ペダルを使い豊かな響きを作りましょう。第1~8小節はメロディーが順次進行で下行します。2小節単位で落ち着いていく表現を心がけてください。
第9~12小節は、メロディーが上行に変わります。第1~8小節と対比するために、第9、11小節はクレシェンドで膨らみのある表情にします。第10、12小節の1拍目はテンションの高い和音ですから、少し強めに弾きよく響かせたあと、次の和音でホッとするニュアンスを出します。
第23小節にあるUは「フェルマータ」と読みますが、これはイタリア語で「停止」という意味です。まだ続くはずの音楽が止まってしまったような表現がほしいところです。オルゴールが止まる様子をイメージしてみましょう。

両手を滑らかにつなぐには(カラダ)

内声は両手で2つずつの音を分担して演奏するため、ぎこちなくなりがちです。しかも両手の薬指と小指を上下声で使うため、難しいですね。
まず半拍ずつ分割して心地よく弾けるようにしましょう。手首を柔らかくして、腕もそのつど下げてかまいません。
慣れてきたら、16分音符4つの単位で滑らかにつながるようにします。コツは左右の親指の連携です。ほぼ同じ強さで打鍵し、間が空かないように注意しましょう。左の親指を若干残し気味にするとうまくいきます。

黒田篤志 くろだ・あつし

1973 年生まれ。早稲田大学修士課程修了。日本アマチュアピアノコンクール7位入賞。出版社にて楽譜と書籍の編集を担当。現在小山市で、大人のピアノ教室“Lento レント” を主宰するかたわら、フリーの編集者、ピアニストとして活動中。
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9月

No.9 ~片手で音色を弾き分ける方法~
〈野ばらに寄す〉マクダウェル作曲『新選ピアノ名曲120初級(P.58)』収録

8曲目はE.A.マクダウェル(1860-1908)作曲の〈野ばらに寄す〉です。和音と弱い音が主体の曲ですから、音のバランスに細心の注意を払う必要があります。調性はイ長調。これまでで一番調号の数が多くなり、#が3つつきます。難しいので譜読みに気をつけてください。

  • 1.タイトル、速度標語、作曲家、形式から曲の様式を把握する。
  • 2.音型やリズム、和音から理論的に表現を考える。
  • 3.ほしい音を出すための指や手首、腕の使い方を決めて、練習の指針にする

それでは、攻略法にしたがって順にみていきましょう。

情景を想像してみよう(様式)

1996年に作曲された10曲からなる性格的小品集《森のスケッチ》の第1曲。アメリカ東部の森林地帯の風景を描いた作品です。Semplice,contenerezzaは「無邪気に、愛情をもって」という意味です。マクダウェルはロマン派後期のアメリカの作曲家で、ピアノ小品を多く作曲しました。両親がスコットランドとアイルランドの移民であったため、それらの国の民謡の影響がこの曲には認められるといわれています。
形式は、①第1~16小節、②第17~28小節、③第29~36小節、④第37~51小節の4部構成です。
第③部で第①部の前半だけを繰り返して短くまとめ、コーダの第④部に入っていくところが変則的ですね。森の中で人知れずひっそりと咲いている野ばら。その素朴で無垢な美しさに触れたときの喜びを表現してみてはいかがでしょうか。

和音の変化を表現につなげよう(理論)

この曲は、小節ごとに和音が変化していきます。常に心が揺れ動いているような表現をベースにしてみましょう。
冒頭のメロディーが、第①③部は上行で8分音符、第②④部は下行で付点4分音符による始まりになっていて対照的です。各部分の弾き始めの対比を工夫してください。
第①③部の第4、12、32小節はドッペルドミナントの和音です。左手のD#音をよく響かせると、フレーズが軽く膨らむので効果的です。第②部の第25~28小節は、属九の和音が続くエネルギーの高い部分です。dim.が指示されているのでサラッと弾いてしまいがちですが、クライマックスになります。
第④部はなだらかに下行していますから、落ち着いていくようにまとめます。第47小節にドッペルドミナントの和音がppで登場します。表現の工夫がほしいところです。

片手で音色を弾き分ける方法(カラダ)

右手の上声部だけ音を際立たせるのは難しいですね。第3、4小節を例に音色の弾き分けについて解説します。
まず各小節の始めの和音をきれいに出します。鍵盤に指を触れてから、それぞれの鍵盤を等しい速さで下げてください。手首を柔らかくして腕の重みをそっとかけていくのがコツ。指先の感触も大切にしましょう。
次に、上のメロディーを弾く指の指先に意識を集中します。指先が鋭くなったようなイメージをもって、鍵盤の底をはうように音を出します。内声部の右手親指は鍵盤に置いているだけにして余分な力は抜きましょう。

「次回はグリーグ作曲の〈アリエッタ〉をご紹介します」

黒田篤志 くろだ・あつし

1973 年生まれ。早稲田大学修士課程修了。日本アマチュアピアノコンクール7位入賞。出版社にて楽譜と書籍の編集を担当。現在小山市で、大人のピアノ教室“Lento レント” を主宰するかたわら、フリーの編集者、ピアニストとして活動中。
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8月

No.8 ~幅の広いアルペッジョの弾き方~
〈舞踏会のあとで〉グレチャニノフ作曲『新選ピアノ名曲120初級(P.24)』収録

7曲目はA.グレチャニノフ(1864-1956)作曲の〈舞踏会のあとで〉です。短い曲ですが、音色や和音の響きに細心の注意を払った繊細な表現が求められます。調性はロ短調。前回より調号が増えて♯が2つになりますから、譜読みにも気をつけましょう。

  • 1.タイトル、速度標語、作曲家、形式から曲の様式を把握する。
  • 2.音型やリズム、和音から理論的に表現を考える。
  • 3.ほしい音を出すための指や手首、腕の使い方を決めて、練習の指針にする

それでは、攻略法にしたがって順にみていきましょう。

情景を想像してみよう(様式)

グレチャニノフはモスクワ生まれの作曲家。リムスキー=コルサコフに作曲を学び、パリ、ニューヨークに拠点を移しました。交響曲や宗教曲など作品は多岐にわたりますが、とくに子供用の曲に定評があります。この曲は、1923年に作曲された15曲からなる性格的小品集《子供のアルバム》の第13曲です。Tempo di mazurkaは「マズルカのテンポで」という意味。ポーランドの民族舞踊であるマズルカは、ショパンの曲でも有名ですね。
形式は、①第1~8小節、②第9~16小節、③第17~24小節の典型的な三部形式です。舞踏会が終わり静かになった会場。そこにひとり立ち尽くす主人公。頭の中では演奏されていたマズルカのリフレイン―たとえばこんな物語の一場面を想像して、賑やかな楽しさのあとに待ち受けている寂しい虚しさ、のようなものを表現してみましょう。

ドッペルドミナントの和音(理論)

第①部では、第4小節にはじめて主音のH音が登場します。さらに第1~3小節のバスはドミナントのF#音です。そのため、まるで途中から始まったような印象を受けます。第2小節の和音はドッペルドミナントです。いきなり転調したように感じるかもしれません。ここでは不安定さを演出しているようです。第3小節でマズルカのリズムが現れ、安心感を得られます。
ニ長調で始まる第②部では、スラーごとに同じメロディーで始まり、ⅤとⅠの和音が繰り返されます。少々しつこいように感じられるものの、第15、16小節でロ短調のⅣとⅤの和音が登場するため、やっと出口がみつかったような気持ちでクライマックスを迎えることができます。第③部はpです。第①部のmpやクレシェンドやデクレシェンドとの対比を明確にして、消え入るように曲を終えましょう。

幅の広いアルペッジョの弾き方(カラダ)

第②部の左手は、音程が広いため弾きにくいと思います。
まず、それぞれの音をよく指を動かしながら弾いて、鍵盤が下がる感触を指で十分に確かめてみてください。
次に、腕の重みもかけてそれぞれの音を弾きます。鍵盤ごとに腕が安定する位置を探り、慣れてきたらレガートにします。指が届かなくてもレガートを意識しましょう。最後に、レガートの腕の動きをベースにしながら指で音を短くします。腕の重みはC#音とD音に最もかけて、徐々に抜いていきます。

「次回はマクダウェル作曲の〈野ばらに寄す〉をご紹介します」

黒田篤志 くろだ・あつし

1973 年生まれ。早稲田大学修士課程修了。日本アマチュアピアノコンクール7位入賞。出版社にて楽譜と書籍の編集を担当。現在小山市で、大人のピアノ教室“Lento レント” を主宰するかたわら、フリーの編集者、ピアニストとして活動中。
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7月

No.7 ~速いパッセージの弾き方~
〈ジプシー・ダンス〉リヒナー作曲『新選ピアノ名曲120初級(P.74)』収録

6曲目はH.リヒナー(1829-98)作曲の〈ジプシー・ダンス〉です。4ページにわたる長い曲ですから、今回も弾き切る力が必要になります。そのためには、各部分の特徴を踏まえて演奏することがポイントになります。調性はニ短調でフラットがひとつ。

  • 1.タイトル、速度標語、作曲家、形式から曲の様式を把握する。
  • 2.音型やリズム、和音から理論的に表現を考える。
  • 3.ほしい音を出すための指や手首、腕の使い方を決めて、練習の指針にする

それでは、攻略法にしたがって順にみていきましょう。

曲の性格を知り部分に分けよう(様式)

リヒナーはドイツの作曲家で、ピアノ用のやさしい性格的小品をたくさん作曲しました。ほかにも〈忘れな草〉など学習者向けの曲がよく知られています。
ジプシーの舞踊曲は、細かいリズム、自由な装飾、テンポや強弱の激しい変化が特徴です。
Allegro agitatoは「激しく速く」という意味です。
この曲は型通りの形式では作られていません。①第1~16小節、②第17~35小節、③第36~51小節、④第52~67小節、⑤第68~83小節、⑥第84~99小節、⑦第100~111小節の7部構成で考えてみましょう。
以上を踏まえ、7つの部分がどの特徴を備えているか考え、曲想を練ります。また前回のように、同じ部分を探して効率的な譜読みをすることも忘れないようにしてください。

各部分の特徴を捉えよう(理論)

第①、④、⑥、⑦部のメロディーは、滑らかな16分音符が基本。「細かいリズム」が特徴のひとつです。伴奏はすべて和音による刻みです。メロディーも伴奏もleggiero(軽く)で演奏し特徴を生かします。
第②部では、第25~32小節で分散和音が、第32~35小節で装飾音が繰り返されます。それぞれクレシェンドも指示されていますね。「強弱の激しい変化」と「自由な装飾」が特徴です。
第③部の第36~43小節は、躍動感のある伴奏と高低差の激しいメロディーによるfです。スタッカートはくさび形に、アクセントは山形になっています。一方、第⑤部はpで、
sostenuto con anima(テンポを少しおさえ気味に、音の長さを十分保って、活気をもって)です。第③、⑤部は「テンポや強弱の激しい変化」を特徴としています。
各部分の特徴を明確に対比させましょう。

速いパッセージの弾き方(カラダ)

第1~2小節を例にします。まず11個ある音をポジションごとに7つと4つに分けて、よく指を動かしながら、ゆっくりレガートで練習します。
次にそれぞれをうまくつなぐ練習をします。親指でF音を弾くと同時に手の中に親指を軽く入れることがコツ。薬指がG音の位置にくるので、滑らかにつながります。最後にテンポを速くしていきます。1カ所だけ腕の重みをかけて、ひと息でスラーを弾けるようにしてください。この場合A、B♭、G音のあたりです。同時にレガートからleggieroのタッチに移行するようにしましょう。

「次回はグレチャニノフ作曲の〈舞踏会のあとで〉をご紹介します」

黒田篤志 くろだ・あつし

1973 年生まれ。早稲田大学修士課程修了。日本アマチュアピアノコンクール7位入賞。出版社にて楽譜と書籍の編集を担当。現在小山市で、大人のピアノ教室“Lento レント” を主宰するかたわら、フリーの編集者、ピアニストとして活動中。
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6月

No.6 ~典型的な伴奏型の弾き方~
〈紡ぎ歌〉エルメンライヒ作曲『新選ピアノ名曲120初級(P.48)』収録

5曲目はA.エルメンライヒ(1816-1905)作曲の〈紡ぎ歌〉です。今回は4ページもある長い曲ですから、弾き切る力を養うことがポイントになります。調性はヘ長調。調号はフラットがひとつです。

  • 1.タイトル、速度標語、作曲家、形式から曲の様式を把握する。
  • 2.音型やリズム、和音から理論的に表現を考える。
  • 3.ほしい音を出すための指や手首、腕の使い方を決めて、練習の指針にする

それでは、攻略法にしたがって順にみていきましょう。

効率的に譜読みをしよう(様式)

前回の〈はじめての悲しみ〉同様、19世紀中頃にたくさん作られた性格的小品です。
Allegrettoは「やや速く」という意味。「紡ぎ歌」とは糸車で糸を紡ぐときの歌です。エルメンライヒはドイツの宮廷劇場の俳優で、詩人、作曲家としても活動しました。オペラも作曲しましたが、現在ではこの曲が知られているだけのようです。
第1~26、27~51、52~82小節が、第①、②、③部になります。さらにそれぞれの部は3つの部分に分けられます。複合三部形式という安定感のある形式です。この曲では、一定のテンポを保ちながら伴奏を刻んで、糸車が回る様子を表現してみましょう。楽しそうな糸紡ぎの風景がイメージできると理想的ですね。また、「第①、③部はほぼ同じだから譜読みはラク!」と考えることが、長い曲を攻略するコツです。

subitopをマスターしよう(理論)

動機のリズムは16分音符で始まり、8、4分音符の組み合わせが2回続きます。音域はオクターヴ上がっています。シンコペーションにつけられたアクセント、スタッカート、最後のテヌートを丁寧に弾けば、楽しげな様子が表現できます。第3、4小節はクレシェンド、第5、6小節はデクレシェンドしてフレーズをまとめましょう。
第②部のメロディーは同じリズムで繰り返されるため、単調になりがちです。変化する調性ごとに右手と左手のバランスを変えて、色彩感に富んだ表現を工夫してください。第50、51小節はクライマックスです。指示どおりにギリギリまでcresc.して、少し間を置いてからpの第③部に入ると効果的です。この表現法はsubitop(スビト・ピアノ)といって、ベートーヴェンの作品などによく使われていますから、マスターしましょう。

典型的な伴奏型の弾き(カラダ)

習得したいテクニックは、第43~49小節の伴奏型の弾き方です。3拍子のワルツなどにもよく見られる典型的な伴奏型です。

バスはしっかり小指を動かして捉えます。同時に腕全体の重みもかけるようにします。おろそかなタッチにならないように鍵盤を底まで下げてください。内声部よりも重みのある音を出すことに気をつけましょう。内声部は前腕の重みを軽くかけて、重音を軽くつまむように弾きます。底まで鍵盤を下げたあとは、ためらいがちに鍵盤を離すことがコツ。手首は柔らかく使ってください。

「次回はリヒナー作曲の〈ジプシー・ダンス〉をご紹介します」

黒田篤志 くろだ・あつし

1973 年生まれ。早稲田大学修士課程修了。日本アマチュアピアノコンクール7位入賞。出版社にて楽譜と書籍の編集を担当。現在小山市で、大人のピアノ教室“Lento レント” を主宰するかたわら、フリーの編集者、ピアニストとして活動中。
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5月

No.5 ~和音の基本的な弾き方~
〈はじめての悲しみ〉シューマン作曲『新選ピアノ名曲120初級(P.35)』収録

4曲目はR.シューマン(1810-56)作曲の〈はじめての悲しみ〉です。これまでの曲は単旋律でしたが、今回は和音が登場します。また、クライマックスにあたるポリフォニーの部分は、難しいので工夫が必要です。調性はホ短調。前回〈ジーグ〉はト長調でしたから平行調です。

  • 1.タイトル、速度標語、作曲家、形式から曲の様式を把握する。
  • 2.音型やリズムや和音から理論的に表現を考える。
  • 3.ほしい音を出すための指や手首の使い方を決めて、練習の指針にする

それでは、攻略法にしたがって順にみていきましょう。

タイトルを表現しよう(様式)

1848年に長女マリーの誕生日プレゼントとして作曲された《子供のためのアルバム》Op.68の第16曲。当時たくさん作られた性格的小品(タイトルのイメージを表現した短いピアノ曲)のひとつです。Nicht schnellは「速くしない」という意味の速度標語です。シューマンの作品の多くには文学的なタイトルがつけられています。はじめて悲しい思いをしたときのことを覚えている人は少ないと思いますが、そのあたりは想像力で補い曲想に生かしましょう。
二部形式ですから簡潔な構造です。第①部が第1~8、9~16小節、第②部が第17~24、25~32小節になります。以上を踏まえると、遅めでシンプルな演奏によって純真無垢な悲しみを表現することが指針になると思います。劇的で激しい悲しみの表現は避けた方がよさそうですね。

ポリフォニーを聴かせるコツ(理論)

動機は弱拍で始まります。fpは通常アクセントを意味しますが、この曲の場合は「弱拍を弱くし過ぎないように」という指示でしょう。悲しみを表現する工夫だと思います。第2~4小節の付点4分音符のあとに続く左手は、右手にうまくつないでなめらかに弾いてください(第10~12、26~28小節も同様)。
第②部に入り、一瞬ハ長調に転調します。まるで別世界にテレポートしたような雰囲気が、瞬間的にほしい部分です。
第21~24小節は、ポリフォニーによるクライマックスです。たたみかけるメロディーが、次々と押し寄せてくる悲しみのようにも感じられます。各声部が独立して動いているように弾くのが理想ですが、かなり難しいでしょう。そこで各声部の始まりを少々大げさに強調してみます。この方法で悲しみが表現できるはずです。

和音の基本的な弾き方(カラダ)

習得したいテクニックは、第29~32小節の和音の弾き方です。

和音は、鍵盤の底を軽くつまむようなイメージで弾きます。そのとき、手首から先だけではなく腕全体で鍵盤の底に到達するようにしてください。つまんだあとは、手首から抜くようにして腕を上げます。第29、30小節の1拍目では、この上下の動きを鋭くします。第30小節の2拍目からは、この動きを緩やかにしていきます。これで、第29小節以降に指示されているアーティキュレーションを生かすことができます。

「次回はエルメンライヒ作曲の〈紡ぎ歌〉をご紹介します」

 

黒田篤志 くろだ・あつし

1973 年生まれ。早稲田大学修士課程修了。日本アマチュアピアノコンクール7位入賞。出版社にて楽譜と書籍の編集を担当。現在小山市で、大人のピアノ教室“Lento レント” を主宰するかたわら、フリーの編集者、ピアニストとして活動中。
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4月

No.4 ~8分音符3つの音型の弾き方~
〈ジーグ〉テレマン作曲『新選ピアノ名曲120初級(P.14 )』 収録

3曲目はG. テレマン(1681-1767)作曲の〈ジーグ〉です。単旋律ですが、両手に現れる部分動機(8分音符3つ)のアーティキュレーションをそろえることにこだわりましょう。この曲はト長調で調号に♯が1つつくので、これまでよりも難しくなります。

  • 1.タイトル、速度標語、作曲家、形式から曲の様式を把握する。
  • 2.音型やリズムや和音から理論的に表現を考える。
  • 3.ほしい音を出すための指や手首の使い方を決めて、練習の指針にする

今回の攻略法には、「和音」の要素を増やしました。

リズミカルかつシンプルに(様式)

テレマンは後期バロック時代に活躍したドイツ出身の大作曲家。あらゆる分野にわたってたくさんの作品を残しました。J.S.バッハをしのぐ名声を博したといわれている、一度は弾いておきたい作曲家のひとりです。ジーグとは、16世紀にイギリスで流行した踊りを起源とする舞曲。バロック期に多楽章作品の楽章として用いられました。複合3拍子(8分の6、4分の6拍子)で広い音程をもつ軽快な音楽であることが特徴です。Vivaceという速度標語に着目し、2拍子のリズムにうまく乗った軽快な演奏を目指しましょう。第①部が第1~4、5~8小節(それぞれ同じ)、第②部が第9~12、13~16小節です。大きく2つの部分からできている構成を二部形式と呼びます。ヨーロッパ民謡、ピアノ小品、日本の唱歌などによく用いられるシンプルな形式ですから、簡潔にまとめてください。

転調に着目しよう(理論)

この曲では、部分動機のリズムが終始繰り返されます。2、3番目の8分音符を軽く弾き、曲全体が重くならないようにしてください。第2~4小節(第6~8小節)はニ長調に転調しています。臨時記号の♯が目印ですね。ニ長調のⅤ-Ⅰ-Ⅴ-Ⅰの和音が連なり、フレーズが終止している点に着目しましょう。第①部、および第②部の前半は、同じフレーズの繰り返しになっています。こうした場合fpでコントラストをつけるのが基本です。対比を明確にしましょう。pのフレーズに入る前に少し間を取るとうまくいきます。第②部の後半、第13~14小節の和音はⅠ-Ⅴの繰り返しですが、バスとソプラノがd音です。ここはg音に解決しようとしている部分ですから、第15小節の最初で軽く区切りをつけて、残りの部分でしっかりと曲を完結させるように演奏してみましょう。

8 分音符3つの音型の弾き方(カラダ)

この曲で習得したいテクニックは、8分音符3つからなる部分動機の弾き方です。この曲だけでなく、多くの曲に使われる音型です。スラーのかかった1つ目の8分音符には、手首を下げ気味にして腕の重みをかけます。2つ目と3つ目の8分音符はスタッカートで弾きます。腕の重みは徐々に抜いていくようにしてください。手首は上げ気味になります。

練習はまず、3つの8分音符をレガートでつなぎ、腕の重みのかけ方を工夫します。最初からスタッカートで練習すると、手の動きがぎこちなくなるので注意しましょう。

「次回はシューマン作曲の〈はじめての悲しみ〉をご紹介します」

 

黒田篤志 くろだ・あつし

1973 年生まれ。早稲田大学修士課程修了。日本アマチュアピアノコンクール7位入賞。出版社にて楽譜と書籍の編集を担当。現在小山市で、大人のピアノ教室“Lento レント” を主宰するかたわら、フリーの編集者、ピアニストとして活動中。
http://ameblo.jp/pianote0519/

3月

No.3 ~ポリフォニーの第一歩~
〈メヌエット〉クリーガー作曲『新選ピアノ名曲120初級(P.13)』収録

2曲目はJ.クリーガー(1652-1735)作曲の〈メヌエット〉です。両手はそれぞれ単旋律ですが、ポリフォニーであるため少し難しくなります。調性はイ短調。〈カンツォネッタ〉はハ長調でしたから平行調ですね。今回の攻略法は次のとおりです。

  • 1.タイトル、速度標語、作曲家、形式から曲の様式を把握する。
  • 2.音型やリズムから理論的に表現を考える。
  • 3.ほしい音を出すための指や手首の使い方を決めて、練習の指針にする

前回とほぼ同じですが、攻略法の基本的な考え方なので、もう一度確認してみてください。

レンブラントの絵画?(様式)

メヌエットは3拍子の舞曲。ルイ14世の時代、17世紀半ばのフランス宮廷に現れたジャンルです。さまざまな3拍子の舞曲がある中、むしろクセがないことが特徴です。
クリーガーはメヌエットが誕生した頃に生まれた作曲家で、活躍したのはバロック時代の中期から後期。この時代は、ポリフォニー音楽からホモフォニー音楽への移行期でした。
曲は第1~8、9~16、17~24小節の3つに分かれます。前回の〈カンツォネッタ〉と同じ三部形式です。第①、③部はほぼ同じ音で、ほの暗いイ短調であるのに対し、第②部はハ長調で明るくなります。
以上のことから推理すると、左右の旋律線がよく聞こえるようにしながら、明暗のコントラストを若干意識して、あまり派手にし過ぎないようにまとめる演奏が、この〈メヌエット〉にはふさわしいようです。レンブラントの絵画のようなイメージでしょうか。

動機の音型に注目!(理論)

動機は、第1~2小節で右手に、そして第2~3小節で左手に現れます。ちょうど1小節ずれています。第4~8小節は右手のリズムが細かくなっています。音楽を盛り上げるための技法です。第①部はイ短調です。
第②部に入りハ長調に転調します。mfを意識して音色を変えてください。左手は下降型になり、リズムも少し変化します。第9~10、11~12小節がフレージングの単位になりますから、第①部と異なるニュアンスで弾きましょう。第13~ 16小節の注意点は第①部とほぼ同じですが、左右の並進行で始まるところが違います。並進行による上昇の勢いを借りてクレシェンドしたあと、第15~16小節でしっかり締めくくります。
第③部の最後は終止線にフェルマータがあります。音が消えたあと少し静寂を聴いてから演奏を終えると、効果が上がります。

ポリフォニーの第一歩(カラダ)

第1~4(17~20)小節で、左右が1小節ずれる動きに慣れましょう。右手の手首は、第1小節で下げ、第2小節で上げます。左手は第2~3小節で同様の動きをします。
第9~12小節は、第1~4(17~20)小節と少し異なります。第9~10小節の右手は、第1~2小節と同様の動きです。それに対し左手は、第10小節の最後の2つの4分音符あたりで、徐々に手首を上げていきます。

ポリフォニー奏法の第一歩は、左右の手がそれぞれ独立して動く感覚に慣れること。〈メヌエット〉でぜひマスターしてください!

「次回はテレマン作曲の〈ジーグ〉をご紹介します。」

 

黒田篤志 くろだ・あつし

1973 年生まれ。早稲田大学修士課程修了。日本アマチュアピアノコンクール7位入賞。出版社にて楽譜と書籍の編集を担当。現在小山市で、大人のピアノ教室“Lento レント” を主宰するかたわら、フリーの編集者、ピアニストとして活動中。
http://ameblo.jp/pianote0519/

2月

No.2 ~スラーの演奏法をマスターしよう~
〈カンツォネッタ〉ネーフェ作曲『新選ピアノ名曲120 初級(P.16 )』 収録

1曲目はC.G.ネーフェ(1748-98)作曲の〈カンツォネッタ〉です。両手が単旋律で、しかも各小節の第1拍目で合わせるように作曲されています。弾きやすいため導入に最適です。攻略法の基本は次のとおりです。

  • 1.タイトル、速度標語、作曲家、形式から曲の様式を把握する。
  • 2.音型やリズムから理論的に表現を考える。
  • 3.ほしい音を出すための指や手首の使い方を決めて、練習の指針にする

この方針を参考にしながら、ほかの攻略法をたくさん考えてみてください。

感じをつかもう(様式)

カンツォネッタとは、16世紀後期から17世紀に流行した小歌曲です。Allegretto という速度標語や冒頭のmpから考えると、極端な表現は控えた方がよさそうです。
ネーフェはベートーヴェンの先生としても有名です。古典派中期~後期の作曲家・教育者が、前の時代に流行した音楽スタイルで作曲しています。初歩の教育を念頭においていたのかもしれません。
曲は第1 ~ 8 、9 ~ 16、17 ~ 24 小節の3 つに分かれます。それぞれ第①、②、③部とします。第①、③部は同じ音です。このようなハンバーガーのような構成を三部形式と呼びます。安定感のある形式で、多くの曲がこの形式を用いています。以上のことから推理すると、この曲は、素朴に均整のとれた様式にまとめた方がよさそうです。

こまかくみてみよう(理論)

第1 ~ 2 小節のメロディーを動機(モティーフ)といいます。この曲の顔のようなものですね。第5 ~ 8小節はいっきにオクターヴ上がってから順次下がるというまとめかたです。
第②部に入り、8分音符が連続します。しかも第9、11、13小節は2 つ単位でスラーがつけられています。動機の前半は4 つ単位でスラーがつけられていましたね。つまり、より尺を短くすることでテンションを高めているわけです。第15小節で16分音符を使い第16小節で第②部を締めくくりますから、ここがクライマックス。第13小節からcresc. で盛り上げ fで決めてください。
第③部は第①部とほぼ同じ。しかし第21~24小節がfになっています。第5 ~ 8 小節との違いを明確にするために、「ハイ、終わり!」というような感じをfで表現するべきでしょう。

スラーをマスターしよう(カラダ)

この曲で大切にしたいテクニックは、スラーのついた4分音符の弾き方です。第2、4、8、16、18、20、24 小節にあります。

前の4分音符は、手首を下げ気味にして腕の重みをかけ、後の4 分音符は手首を上げつつ腕の重み抜くように演奏します。さらにレガートできれいにつながるようにしてください。前の4分音符を後の4分音符に少し重ねてもよいでしょう。第9、11、13小節のスラーでは同じ弾き方を小刻みに使ってみてください。この音型はさまざまな曲に出てきます。〈カンツォネッタ〉でマスターし、自分のテクニック・アイテムにしてしまいましょう!

「次回はクリーガー作曲の〈メヌエット〉をご紹介します。」

 

黒田篤志 くろだ・あつし

1973 年生まれ。早稲田大学修士課程修了。日本アマチュアピアノコンクール7位入賞。出版社にて楽譜と書籍の編集を担当。現在小山市で、大人のピアノ教室“Lento レント” を主宰するかたわら、フリーの編集者、ピアニストとして活動中。
http://ameblo.jp/pianote0519/

1月

新連載スタート!ピアノ指導者必見!

教本選びはピアノの先生方の最大の悩みだと思います。練習曲からレパートリー集まで、出版されているたくさんの楽譜には、それぞれ教材としてのよさがありますが、効率的に演奏力がアップして、しかも有名なレパートリーが手に入るような楽譜があると嬉しいですね。そこでおススメしたいのが、『新選ピアノ名曲120初級』(学研プラス刊)です。今回から12回、この曲集のユニークな使い方についてお話ししたいと思います。

この曲集を使うメリット

『新選ピアノ名曲120初級』を使うメリットは3つあります。

  • ①曲の並びがほぼレベル順になっている
  • ② バロックから近現代までの時代の作品を網羅している
  • ③ 作曲家49 名の作品が収録されているため、さまざまな作風に触れることができる

これらを上手に使うことができれば、ピアノを弾くうえでの基礎が効果的に身につくでしょう。さらに意識的に取り組んでほしいことは、曲を仕上げるための「オリジナル攻略法」を確立することです。

オリジナル攻略法をつくろう

どんな曲を弾くにしても攻略の手順がありますが、明確にそれを意識している方は少ないのではないでしょうか。しかしピアノを弾く人ならば、自分だけの「オリジナル攻略法」を持つべきだと思います。この曲集をとおして「攻略法」の基礎を手に入れ、それをもとに、汎用性のある自分だけの「オリジナル攻略法」を作ることができれば、あらゆる曲を弾きこなすことができるでしょう。生徒さん独自の「オリジナル攻略法」を一緒に作っていくレッスンは、創造的であると思います。

攻略法のポイント

楽譜は暗号のようなものです。そして演奏は響きを生み出すことです。ですから攻略法とは、「よい演奏(響き)のために、楽譜(暗号)を解釈(解読)すること」ではないでしょうか。攻略の手順を図にまとめてみました。この図をベースに、『新選ピアノ名曲120初級』のなかから毎回1曲ずつ厳選して、段階的で効果的な使用方法をご紹介していきます。2 月号はネーフェ作曲「カンツォネッタ」をご紹介します。

黒田篤志 くろだ・あつし

1973 年生まれ。早稲田大学修士課程修了。日本アマチュアピアノコンクール7位入賞。出版社にて楽譜と書籍の編集を担当。現在小山市で、大人のピアノ教室“Lento レント” を主宰するかたわら、フリーの編集者、ピアニストとして活動中。
http://ameblo.jp/pianote0519/

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