WEB限定 書き下ろし小説

名コンビ誕生? へんてこ貴族セドリック&ドラゴン少年ライム♪

3

 橋をふたつ渡った対岸は、中央広場になっている。
 月食祭を数日後に控えてにぎわう広場にやってくると、セドリックはサーカスのテントを指さした。
「年に2、3回やってくるサーカスだよ! 僕はあのサーカスが来る度に、南街区の子供たちを招待しているんだ」
 ごくごくたまにだが、人の役に立つこともするセドリックはそう説明すると、準備中のテントの方に近寄って、ライオンの檻の前にいた女の子に声をかける。
「エリエット嬢、元気だったかい?」
「え? ああ、ええっと、確かーー」
 セドリックの顔を見た女の子は、名前を思い出そうと眉をひそめた。
「そうそう、ロデリック!」
「あはははは、相変わらず面白いことを! この僕、セドリックのことを忘れた振りをするなんて!」
 セドリックは笑ってエリエットの肩を叩く。本気で忘れられていたなどという考えは、これっぽっちもないようである。
「あなたが団長さん?」
 ライムは女の子にたずねた。
「まさか? あたしはそんな器じゃないの。団長はあっち。アネット!」
 エリエットは吹き出すと、歌う白鳥の姿が描かれた馬車の近くにいた少女を指さして呼び寄せる。
「ずいぶん若い方ですね」
 トリシアと同じくらいの歳の少女がやってきたのを見て、セドリックは目を丸くした。
「いらっしゃい、セドリック君。そちらは?」
 団長のアネットはセドリックに微笑むと、続いてライムの方に目を向ける。
「こちらはライム。僕の親友だ」
 セドリックは紹介した。
「……へえ。大変そうだけど、がんばって」
 ちょっとこわばった笑みを投げかけてから、アネットはじっとライムを見つめる。
「あなた、ちょっと不思議な感じがするね」
「気がついたかい?」
 セドリックは胸を張り、ライムの肩に手を置いた。
「実はだね、このライム君はドラゴンなのだよ。実に僕の親友にふさわしい」
「そっか。道理で」
 アネットはうなずいて手を差し出した。
「よろしくね。うちのサーカスはまだしばらくは街にいるから、遊びに来て」
「この街の人たちはみんな驚かないんですね? 僕がドラゴンだって聞いても?」
 その手を握り返し、ライムはたずねる。
「慣れてるんでしょ、変わった連中に。まあ、私もそのひとりなんだけど」
 アネットは肩にかけていた白い羽毛のショールをフワリと振った。銀色の輝きがアネットの体を覆い、その姿は白鳥へと変身する。
「白鳥の乙女!?」
 ライムは馬車に描かれた白鳥の意味に気がついて、目を丸くした。