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コラム・マンガ

「いのちの学習」で子どもたちから教わること

「いのちの学習」で子どもたちから教わること

あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと「第57回」

院内学級の教師として、赤鼻のピエロとしてかかわるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族とのかかわり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。

「相手の気持ちを考えなさい」

私たち教師や大人は、よく子どもたちにこのように言います。
「相手の立場に立って、物事を考えてごらん」と。

しかし、相手の気持ちを想像することは、本当に難しいことだと感じます。

たとえば、明日、手術をひかえた小学校1年生のお子さんが、その夜をどんな気持ちで過ごしているのか想像できるでしょうか。

何度もそんな場面によりそってきたナースであっても、子どもたちの気持ちからはなれてしまうことがあります。
決して、そのナースが冷たい人というわけではありません。

この子は明日、手術だから、今日の夜は何時までに食事を終えなければならない、薬を飲ませなくてはいけない、たっぷりねかせないとダメだ、水分は何時までとらせたらよいのか。

仕事にまじめであればあるほど、子どもたちの気持ちが想像できなくなっている姿を、何度も見てきました。
教師である私も、今学期中にこのことをクラスのみんなに身につけさせなければならない、単元を今月中に終わらせないといけない、成績表も付けなければ……。

そう思えば思うほど、子どもたちの気持ちが見えなくなっている自分がそこにいたことがあります。

「教わっていません!」

ある学校で講演会をさせていただいたとき、子どもたちにたずねてみました。
「相手の気持ちになって考えることとは、どうすればよいのかわかりますか?」
そのとき、ある男の子が体育館中にひびく声で答えてくれた言葉が「教わっていません!」でした。

そうですよね、相手の気持ちを考えたり、相手に思いやりをもったり、それを教えることは難しいことだと思います。
──どうすれば、みんなに病気をかかえた子どもたちのことを想像してもらえるだろう。
こうして前回、お伝えした「いのちの学習」が始まりました。(前回記事「いのちの学習で伝えたい3つのこと

ある小学校で、高学年を対象に「いのちの学習」を行ったとき、6年生の女の子がペンをにぎったまま固まっていました。最後に、病気をかかえた子どもたちへの感想や、何をいっしょにしたいか、なんて声をかけてあげたいかと、質問をしたときのことでした。

私はそばによって、女の子の顔を見ながら「うん?」と声をかけると、女の子が「私、何もしない。だって、何もできないよ」と伝えてくれました。私が「そうだよね、何もできないなと思うよね。そう思ったら“何もない”って書いていいよ。それも大切な考えだよ」と言いました。そのあと、たまったものがどっとあふれるように多くのアイデアを書いてくれました。

別の小学校では、特別サポート学級の4年生の男の子が、なんて声をかけてあげたいかの質問に「ぼくがいるからだいじょうぶだよ」と書いてくれました。
すてきな気持ちをもっているお子さんだなあ、どんな人たちとのかかわりで育ってきたのだろう、と想像がふくらみます。

こんなふうに、「いのちの学習」をさせていただく中でたくさんのことを子どもたちから教わりながら、私自身もいまだに成長させていただいております。

Information

「あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ」
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊

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あかはなそえじ先生・副島賢和(そえじま まさかず)

筆者:あかはなそえじ先生・副島賢和(そえじま まさかず)

昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当 1966年、福岡県生まれ。東京都の公立小学校教諭を25年間務め、 1999年に都の派遣研修で東京学芸大学大学院にて心理学を学ぶ。 2006年より品川区立清水台小学校教諭・昭和大学病院内さいかち学級担任。2009年ドラマ『赤鼻のセンセイ』(日本テレビ)のモチーフとなる。2011年『プロフェッショナル 仕事の流儀「涙も笑いも、力になる」』(NHK総合)出演。2014年より現職。学校心理士スーパーバイザー。ホスピタルクラウンとしても活動中。

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