解説 お江戸の科学

酒造りー精米から火入れまで

日本酒は米を糖化して発酵させて造る。米のでんぷん質を糖化する酵素を作るのが麹菌(こうじきん=こうじかび)、糖化したぶどう糖を食べてアルコール発酵するのが酵母(酵母は空気中に自然に存在している)である。 日本酒造りは1.精米、洗米、蒸し米の準備段階化から、2.麹造り、もと造り、醪(もろみ)造りを経て、3.搾り、火入れ、樽詰めに至る。江戸時代の酒造りは麹菌と酵母の繁殖方法や、保存のための火入れの技術などにおいて高度な技術を有していた。

1.精米 精米で玄米の外側(脂肪やたんぱく質が多い)を削り取り、でんぷん質の割合を高めると、より高質の酒ができる。江戸初期には人力による足踏み精米が行われ、さらに後期には水力による水車精米が開発され、精白度の向上と大量精米が可能になった。 2.米洗いと浸漬(しんせき) 精米された米をきれいに洗い、その後、浸漬桶に米を入れ、水を吸収させる。この水が重要で、良質の酒を造るのに、リン酸、カリウム、カルシウム、などの成分を多く含んでいることが大切。

3.蒸し 水を含んだ米をこしきにいれて蒸す。蒸すことで、米のデンプン質が変質(α化)し、麹菌が繁殖しやすい状態になる。4.麹(こうじ)造り 蒸した米に麹菌(種麹)を付ける。これを高温多湿の部屋、麹室(こうじむろ)に入れて菌を繁殖させ、麹を造る。

5.もと造り できた麹に蒸し米と水を合わせ、擦り混ぜる。もと造りは、アルコール発酵をする酵母を大量に培養する工程。まさに酒造りの「もと」である。酒の母という意味で酒母(しゅぼ)ともいう。 6.醪(もろみ)造り 5のもとに、さらに麹、蒸し米、水を三回に分けて加え、仕込む方法が“三段仕込み”。一度に大量の材料を仕込むと、雑菌が繁殖しやすくなるためである。やがて酵素によって糖化されたブドウ糖を食べて酵母が発酵し、アルコールを含んだ醪(もろみ)ができる。

7.酒搾り 醪を酒袋に入れて酒槽(ふね)に積み重ね、石のおもしで搾る。残った固形物が酒かす。搾った酒を澄まし桶(大桶)に移し、数日間放置すると、底に“おり”が沈没して上部に住んだ酒ができる。 8.火入れ(低温殺菌) 済んだ酒を、およそ60℃で10〜15分加熱する。この“火入れ”によって低温殺菌された酒は、囲い桶で貯蔵され、その後、樽詰めされる。