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コラム・マンガ

大人に気を遣う子どもたち①

大人に気を遣う子どもたち①

あかはなそえじ先生の院内学級の教師として学んだこと「第97回」

院内学級の教師として、赤鼻のピエロとしてかかわるなかで、笑顔を取り戻し、治療に向かう意欲を高めていく子どもたち。その経験をもとに、子どもとの接し方や保護者・家族とのかかわり方、院内学級の必要性、教育の重要性などについて語ってくれます。

偽りのインセンティブ

「子どもたちは偽(いつわ)りのインセンティブ(報酬)をくれるからね」

この言葉は、東京都小金井市の教育長である大熊雅士先生から教えていただいた言葉です。

クラスには、担任の先生とよい関係をつくりたいと考えている子どもたちが、多く存在するでしょう。
先生を怒(おこ)らせたくない、悲しませたくない、迷惑をかけたくない、と考える子どもたちがいます。

教師は子どもたちにとっては「評価する人」ですから、子どもたちはあまり意識をせずに教師にプラスのフィードバックを返してくれることもあるのかもしれません。

教師になりたての頃、授業の終わりに子どもたちと、こんなやり取りをしていた覚えがあります。

「今日の授業はわかりましたか?」

「はーい」

──このやり取りでの言葉は、なんのための言葉だったのか──

今の自分にそう問うてみました。
けっして全員が授業内容を理解していたとは考えていない自分がいたにもかかわらず、単に発していた言葉。つまり、授業の終わりを告げるためだけの言葉だったように思います。

それは、私自身が安心するための言葉でもありました。
この言葉で、私と同じように、気持ちよく授業を終われるお子さんもいたでしょう。

しかし、この言葉を周りの友だちが言ったので自分も「はーい」と返事をしてしまったり、
わからないところや納得できないところがあったにもかかわらず質問することができなかったり、
「いいや」と諦(あきら)めてしまったりしたという子どもたちもきっといたはずだと思うのです。

「お母さんが悲しむから」

頭の中に病巣(びょうそう)ができ、入院、治療を重ねて、ようやく回復をした男の子がいました。退院が近づいていましたが、ご両親の希望で彼に病名は伝えられていませんでした。

でも、頭には傷があります。学校に復帰して、同じクラスの友だちは何も言わないかもしれませんが、学校の中には傷のことを聞いてくる人がいるかもしれません。

医療のスタッフとは「退院する前に、その子にわかるように話をしたい」と話していましたが、とりあえず退院にあたって、私が彼に心配なことや不安なことなどを聞きに行くことになりました。

「退院が近くなったけど、何か心配なことや聞きたいことがありますか?」と尋(たず)ねたところ、彼から自分の病名に関する話が出てきたので、病名について話をする許可をもらっていなかった私が「どうして、そう思ったの?」と聞き返すと、通信機能が付いているポータブルゲーム機で調べたことを説明してくれました。

私に病名を教えてくれたあとで、彼はこう言ったのです。

「先生、お願いだから、お母さんには絶対に言わないで。だって、僕の病名がわかったら、お母さんが悲しむでしょ?」

──こんなことを考えながら、この子は、あんなつらい治療と向き合っていたのか──

そう考えると、胸が締(し)めつけられる思いがしました。

Information

「あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ」
四六判・全248ページ
1400円+税
学研教育みらい刊

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あかはなそえじ先生・副島賢和(そえじま まさかず)

筆者:あかはなそえじ先生・副島賢和(そえじま まさかず)

昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当 1966年、福岡県生まれ。東京都の公立小学校教諭を25年間務め、 1999年に都の派遣研修で東京学芸大学大学院にて心理学を学ぶ。 2006年より品川区立清水台小学校教諭・昭和大学病院内さいかち学級担任。2009年ドラマ『赤鼻のセンセイ』(日本テレビ)のモチーフとなる。2011年『プロフェッショナル 仕事の流儀「涙も笑いも、力になる」』(NHK総合)出演。2014年より現職。学校心理士スーパーバイザー。ホスピタルクラウンとしても活動中。

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