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子育て

スポーツメンタルトレーナーに聞く 子どものやる気をぐんと引き出す声かけ【第3回】

スポーツメンタルトレーナーに聞く 子どものやる気をぐんと引き出す声かけ【第3回】

前回、子どもに限らず、人間のやる気の源泉は「自主性」「関係性」「有能性」の3つであることをご紹介しました。今回は挫折を受け入れ、乗り越えていくために必要な考え方や、そもそも子どもが乗り気ではないときにはどうすればいいのかについて、メンタルトレーナーの伴元裕さんに話を伺いました。

ありのままを受け入れる、それが挫折を乗り越える鍵

挫折を乗り越えるメソッドとして、心理学の分野では、まず行動のみに焦点をあてた「行動療法」が、次に人の認知(物の受け取り方や考え方)にも働きかけて気持ちを楽にする「認知行動療法」が有効とされてきました。そして、今、第三世代の「アクセプタンス&コミットメント療法」が注目を集めています。
この療法がこれまでのものと大きく違う点は、アクセプタンス(Acceptance)、日本語に訳すと「受容」、つまり受け入れる」ことを重視していることです。

挫折の心理学療法
挫折を乗り越えるための療法はこれまでいろいろありましたが、今は第三世代である自分の状態を「受け入れる」療法が有効とされています。

例えば、子どもが何か嫌なできごとに出合ったり、失敗したりして落ち込んでいる場合、この療法ではまず自分の状態を自己認識させることから始めます。
子どもに「どう感じたの?」などと聞いて引き出した答えを、おうむ返しでいいので「~だったんだね」本人に跳ね返っていくようにします。つまり、自分の状態を自分自身が認識できるように導くのです。
鏡を見て寝ぐせを見つけたら、自分で寝ぐせを直そうとしますよね。それと同じで、子ども本人が自分の状態を理解すれば、周囲が何も言わなくても「次はこうしてみよう」と考えるものです。
大人は鏡になって、子どもが自身の状態を受け入れるサポートをしてください。

乗り気じゃない子どもにはポジティブな会話を

スポーツにしても、勉強にしても、子どもが乗り気ではない場合には、会話にちょっとした工夫が必要です。
大人には、鏡になるときにフィルターをかけていただきたいのです。具体的には、質問するときに「今日の練習では楽しいことがあった?」「どこが面白かった?」などと答えがポジティブなものになるようにするのです。
本人が振り返って少しでもいい時間だったと頭の中で整理することができれば、自分が取り組んだ練習や勉強が有意義であったと感じられます。

それでも、何もポジティブな返答が出てこない場合もありますよね。その場合は、それを行ったという事実や、事前に準備していた行動に焦点を当てて、言葉にして認めてあげてください。
無理にほめる必要はなく、「(行ったことを)見てたよ」などと事実を伝えてあげるだけで充分です。
行動を認められたという充足感も、子どもが次の行動に移す原動力になりえます。

少しでも本人が取り組みに楽しみを見出せれば、内発的なモチベーションが出てきます。そこでさらにポジティブな方向に会話を続けて気持ちを引き上げてあげると、どんどん子どもは自主的になるはずです。

挫折を受け入れるステップ
①自分の状態に気づき、②失敗や挫折は誰にでも起こることを理解し、受け入れ、③目的である“なりたい姿”のために再集中する。この3つのプロセスが大切とされています。

やる気が出たら、なるべく干渉しない

本人がすでに夢中になっている場合には、“あめ”をあげないでください。
ここでいう“あめ”とは「勝ったらゲームを買ってあげる」「おこづかいをアップする」などの外的な報酬を意味します。
心理学においてアンダーマイニング効果と呼ばれる現象があります。これは外的報酬を与えることで、内発的モチベーションで始めたことも報酬がないとやらないという状態になるものです。

また、結果で能力をほめることも避けてください。例えば、「優勝してえらいね」「1位になるとは才能があるね」などのように結果と能力を結びつける声かけは、かえって子どもたちの首を絞めることになります。
どんなに努力しても結果が出るとは限りません。結果につながらない努力ならする意味がないと思ってしまうと、内発的なモチベーションが失われ、夢中になっていることがつまらなくなってしまうのです。
実はプロの選手では、結果を求められ過ぎて、その競技や分野が楽しくなくなってしまうのはよくあることです。
プロであれば結果を求められるのは致し方ないところもあります。しかし、子どもの習い事の段階で結果を求められてつまらないと感じる必要はないのです。

大人は必要があればすぐサポートする姿勢を見せつつ、本人のやる気が出たらなるべく干渉しないのが正解なのです。

取材・執筆:松葉紀子(スパイラルワークス)

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伴元裕(ばん もとひろ)

監修者:伴元裕(ばん もとひろ)

7年間の商社勤務後、スポーツ心理学を学ぶため渡米。デンバー大学大学院にてスポーツ心理学を修了。帰国後、中央大学でスポーツ心理学の研究を続けながら、プロアスリートやビジネスリーダーに対して、最先端のメンタルトレーニングを提供。2019年にはNPO法人Compassionを設立。

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