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塩川達大

第6回・京都モダン建築祭と学びの本質

11月1日から9日の間、京都では、通常非公開のものも含めて魅力的なモダン建築が一斉公開される「京都モダン建築祭」が開催されました。建築文化を愛するファンにとっては得難い魅力的な機会となっています。
ちなみにこうしたイベントは近年全国各地で開催されるようになっております。東京では昨年から春に「東京建築祭」が開催されていますし、広島県でも今年10月にはじめて「ひろしま国際建築祭」が開催され、今後3年に一度行われる予定とのことです。
モダン建築は保存にもお金がかかります。こうした事業は建築物の管理修復にも活用されたり、さらにはまちの観光振興にもつながるという点でも意義があると思います。
閑話休題、京都モダン建築祭では、文化庁主催の関連イベント「建築ツーリズムをつなぐ~Link Archi Scape~」が行われ、第一部はアンガールズの田中卓志さんとNHKのブラタモリでも有名な以倉敬之さんのトークイベントが行われました。内容は以下のように報道されています。

後者から、田中さんのコメントを引用します。「建築物の注目ポイントを“見落としたくない”との理由から、事前に十分調べて行く」といい、「ふらっと行って見るのもいいんですけど、見どころは必ずネットに建築好きの誰かがあげてるんです。いろいろな楽しみ方はあると思うんですけど、僕はそのぐらいの準備をしてから行ってます。あとは自分がグッときた部分を見るっていう感じですね」と語っています。 私もこのイベントに参加していましたが、「事前に調べると100倍楽しいし、調べないと大事なところを見落とす」といったこともおっしゃっていたように思います。

このトークセッションを拝聴していて、建築文化を愛するということは、単に建物を愛でるだけでなく、建設した施工主から建設に携わった人、地域風土・歴史といったことも含めて、総合的な人の営みの興味・理解・共感であるのだと感じつつ、とりわけ、以下の点について思いをはせていました。

(1)予習の大事さ
予習しなければ建物の見どころを理解できないという言葉の通り、理解するための事前の準備の大事さを改めて感じました。

2)知識の横展開
田中さんがその日、例に出していたモダン建築はチューダー様式ですが、これは文字通りイギリスのチューダー朝の時代に流行した建築様式です。例示された建物の施工主がイギリス好きであったゆえんのようですが、建築に関する知識に加えて、一見縁遠いような世界史の知識が当該建築への理解を深め、田中さんの言葉を借りればより「楽しい」状況につながると思いました。

中央教育審議会教育課程特別部会では9月に、学習指導要領改訂に向けた論点整理をとりまとめ公表しています(» 「論点整理」(文部科学省))。「自らの人生を舵取りする力」が不可欠であり、「社会に開かれた教育課程」を進め、「個人と社会のウェルビーイングの実現」を図ることを掲げておりますが、生涯、自分をアップデートするには、自分が良くなることにワクワクし続けることが必要です。
年を重ねるにつれ、そのことが難しくなること、同時にだからこそ大事であることを感じておりますが、ずっとワクワクするためには、子どもの視点で「好き」を育み、得意を伸ばすことができる学びの環境が大事。同時に、必ずしも今、好きと思えない分野でも「タテ」・「ヨコ」の関係から、将来深くワクワクするために必要な学びを予習復習も含めてしっかりできる環境も大事。これが今議論している、学習指導要領の構造化の必要にもつながるのではないかとも思いました。

今のワクワクを将来につなげていくこと、そのことを礎とした学習環境の充実方策が大事であることを考えつつ、田中さんの魅力的なお話にひきつけられたイベントでした。文化の秋です。寒くなりますが、子どもと同じように新しいことを学ぶことにワクワクして、自らの成長にもつなげる錦秋の季節を過ごしたいものです。

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塩川達大(しおかわ たつひろ)
塩川達大

京都大学経済学部卒業、ロンドン大学ユニバーシティカレッジロンドン修士(公共政策)

1996年文部省(当時)入省、文部科学省、岐阜県教育委員会、内閣官房(地方創生担当)等の勤務を経て、2017年スポーツ庁学校体育室長(部活動改革担当)、2019年初等中等教育局参事官(高等学校担当)、2021年高等教育局専門教育課長、2023年7月国立大学法人金沢大学理事・副学長

2024年8月より文化庁 文化資源活用課長