WEB限定 書き下ろし小説

三兄弟と妖精の鉱山!

「ここか?」
 トリシアたちが裂け目に到着すると、四、五人ほどの鉱山妖精たちがそこには集まっていた。
 みんな、トリシアの肩ぐらいの背の高さだが、立派なあごひげを生やし、鎧とかぶとを身につけている。
「人間の騎士か。来てくれて助かる。仲間が数人、閉じ込められておるのだが、他の場所でも事故があって、手が回らんのだ」
 重そうな斧を担いだ鉱山妖精が、あまり愛想のよくない顔でプリアモンドたちにうなずくと、地面にできた裂け目にたらされたロープを指さした。
「地下にまだ何人か残って救出作業を続けている。これを使って下りてくれ。ちょっとばかし深いがな」
「……確かに、これは面倒だな」
 裂け目をのぞき込んだプリアモンドが、トリシアを振り返る。
「トリシア、魔法を使って簡単に降りられないか?」
「ええっと、こういう時は……」
「おい待て」
 トリシアが答える前に、リュシアンがプリアモンドの肩をつかんだ。
「ショーンが言っていたぞ。トリシアは治癒魔法以外の魔法だと必ず失敗するとな」
「じゃあ、やめといた方がいいよねー。助けに来て、けが人が増えたら困るものー」
 エティエンヌが笑う。
「……あんたたち、すっごい失礼だって、自覚ないの?」
 トリシアは三人をにらみながらも、ロープをつかんで真っ先に下り始めた。
 閉じ込められている妖精の中には、怪我をしている者たちがいるかも知れない。
 だとしたら、早い手当てが必要だ。
「よし、助け出すぞ」
 リュシアンたちは、トリシアのあとに続いた。
 しかし。
「おい」
 ロープを降りている途中で、リュシアンがプリアモンドに声をかけた。
「さっきみたいにドジを踏むなよ? 少しは頭を使え」
「だよねー」
 エティエンヌが頷く。
「何でもかんでも正面から突っ込んでくの、止めて欲しいよねー」
「おい、今回は救助だぞ? 突っ込んでく必要はないだろ?」
 プリアモンドは眉をひそめる。
「前回も人質の救助だったんだ。忘れるな、ボケ兄」
「誰がボケ兄だ!」
「プリアモンドに決まってるじゃない。僕、弟だもん」
「ちょっと、真面目にやって! 命がかかってるかも知れないのよ!」
 先に裂け目の底まで下りたトリシアは腰に手を当てて、三人を見上げた。
「大丈夫。僕ら、どんな時でも失敗はしないから。……よいしょっと!」
 と、笑いながら飛び下りるエティエンヌ。
「……この連中、頼りにしちゃダメよね」
 あたりは暗いが、地下道は南北に伸びているようだ。
 天井の高さは鉱山妖精の身長に合わせてあるせいか、トリシアの頭ギリギリである。
「これが鉱山妖精の地下道?」
 柱に吊るされたランプの明かりに、ぼんやりと浮き上がったまわりの風景を見て、トリシアは息を呑む。
 事故が起こる前は、美しい地下道だったのだろう。
 床は磨かれたように平らで、染み出てきた水を流す溝もついている。
 天井を支える石の柱はどれも頑丈そうな岩でできていて、妖精語の文字が彫られているようだ。
 だが、今は土と崩れた岩の破片で、地下道の半分ぐらいは埋もれてしまっている。
「人間どもか?」
 ランプをかざして救出作業を続けていた鉱山妖精たちが、トリシアたちを振り返った。
「状況は?」
 と、長身のリュシアンが身をかがめてたずねる。
「よくないな」
 頬を泥で黒く汚した妖精が答えた。
「ここは十二世紀ほど前にダイヤを掘るために作られた地下道だが、近くにドラゴンが巣を作り始めてな。その振動で水晶の柱が何本か砕けたようだ。他の場所で生き埋めになった連中は助け出したが、ここだけは……」