WEB限定 書き下ろし小説

レン、騎士をめざす!

1

 ヴィントールへの航海から半月ほど経った、この日。
 レンは、白天馬騎士団本部の中庭でリュシアンと剣を交えていた。
「はい! 本日、これで76敗目~!」
 リュシアンが刃を落とした細剣でレンの手首を打ちつけたところで、エティエンヌが宣した。
「毎度のことだが、お前の剣はまとも過ぎるな」
 細剣を地面に突き立てると、リュシアンはレンに告げる。
「それ、誉めてないよね」
 しびれた手を振りながら、レンは顔をしかめた。
「誉めるところがないからな。まあ、動きを読みやすいのは確かだが――」
 リュシアンはレンが落とした剣を投げ返す。
「その原因は、騎士団で通常使っている剣と盾が、お前には重すぎることにあるようだ」
「そ、そう?」
「剣を振ってるっていうより、剣に振り回されてる感じかなあ? 僕らから見ると、ハエが止まりそうな動きだよ」
 エティエンヌも頷く。
「そうか~」
「いやいや。この程度の剣や盾が重いなんてことはないだろう? 騎士の通常装備だぞ?」
 と、首を傾げたのはプリアモンドである。
「あのな、世の中、お前みたいな馬鹿力だけじゃないんだ」
 リュシアンはため息をつく。
「そうそう。あのシャーミアンちゃんだって鎧を着て、盾と剣を持っての戦いに慣れるまで半年かかったじゃない?」
 エティエンヌは遠い目になって付け加える。
「……あの頃までは可愛かったよね~、シャーミアンちゃん。初々しくって」
「ほう、今は初々しくも可愛くもなくて悪かったな?」
 エティエンヌの背中で声。
「うわさをすると、必ず現れるよね」
 エティエンヌが強ばった顔で振り返ると、もちろんそこに立っていたのはシャーミアンである。
「その可愛くない剣さばきの切れ味、見せてやろうか?」
 シャーミアンはギラリと光る剣を抜いた。
「きゃ~!」
「待て! この怠け者が! 午後の巡回はどうした!?」
 いつもの追いかけっこが始まった。
「ああっとな、防御の時には、手首で剣をさばいてかわそうとするな。肩とひじから、腕全体を使うんだ」
 エティエンヌたちを無視して、プリアモンドが指導を続け、自分で実際にやってみせる。
「こう?」
 レンも真似てみるが、どこかぎこちない。
と、そこに。