WEB限定 書き下ろし小説

騎士の資格

第二回

エティエンヌの場合

「うわー、ショーンにプレゼントする花の種を選んでたら、もーこんな時間! シャーミアンちゃんに怒られちゃう!」
 エティエンヌは花屋で買った種の袋を持って、騎士団本部に帰ろうと走っていた。
 定期市の日は、夜になっても中央広場はにぎやかだ。
 見回りに出てくる、と副団長のシャーミアンには告げたものの、あっちこっちの屋台で遊びすぎて、あたりはもうすっかり暗くなっている。
「怒ってるだろうなー。ショーンを連れていって、代わりに謝ってもらおうかなー。シャーミアンちゃん、ショーンにだけは優しいし」
 真っ直ぐ本部に戻って怒られるか、それともサクノス家の屋敷にいったん寄ってから本部に向かおうか?
 エティエンヌがちょっと立ち止まって考えようとした、その時。
「……ん?」
 別々の方向から来た男たちが、視線で合図し、次々と人通りのない路地裏へと入って行くのが目にとまった。
 お世辞にも、人相がいいとは言えない連中である。
 だが、何よりも気になったのが、全員、上着の下に武器を隠し持っていたことだった。
「ものすごーく怪しい……よね?」
 エティエンヌの足は、自然と男たちが消えた路地裏へと向かう。
 そして、角のところから奥の様子をうかがい、耳を澄ますと……。
「楽な仕事……」
「抜かりはない……」
「抵抗されたら……」
 男たちの会話の断片が飛び込んできた。
「……はあー」
 エティエンヌは深いため息をつく。
「どうしてこういう話、聞きつけちゃうんだろ、僕? 放っておけないじゃない?」
 そうこうしている間に、男たちは移動を開始した。
 騎士団本部に戻って応援を呼ぶ時間はないし、何より、これから男たちが犯罪を実行するという確証がない。
「ねえねえ、君」
 エティエンヌは通りがかった女の子に、花の種が入った袋を渡した。
 種の袋を持っていては、ちょっと動きにくいからだ。
「これ、あげる。大事に育ててね」
 きょとんとしている女の子を残して、エティエンヌは追跡を開始した。