WEB限定 書き下ろし小説

出逢い~星見の塔誕生

後編

あらすじ
…まだ「星見の塔」ができる前のこと。
トリシアとレンは貧しいながら、二人で支えあって生きてきた。
あるとき、二人はピンチにおちいり、若き日のアンリに助けられる。
それが初めての、そして運命の出会い。
しかしレンとアンリはまだ心を通わせていなかった…。

「俺はパットみたいに、食い物でつられたりしないからな」
 「三本足のアライグマ」亭を出たレンは、トランシュブールス通りを歩きながら自分に言い聞かせていた。
「そりゃあ、確かにあのお茶っていう飲み物、うまかったけど……」
 レンはブツブツ言いながら足をとめ、さりげなく周囲を見渡した。
 視界の端に、誰かが物かげに身を隠す様子が映る。
「やっぱりか……」
 少し前から、誰かにつけられている気配を感じ取っていた。
 足音からすると、少なくても十人以上だろう。
「このあたりでもめたら、警備兵が飛んでくるからな……」
 人通りのないところで正体を見極めようと、レンは路地裏に入ってゆく。
「……出てこいよ」
 袋小路にたどり着いたところで、レンは振り返った。
 十三、四人の少年たちが、袋小路の出口をふさぐように姿を現す。
 うす汚れた服に、怒りと憎しみに満ちた目つき。
 どうやら、この南街区で悪さをしている不良少年の一団のようだ。
「よお、レン。久し振りだな」
 一番年長らしいそばかすの少年が、一歩前に出てレンに笑いかけた。
「お前は……」
 レンは首をかしげる。
「……誰だっけ?」
「くっ! このあたりを取り仕切る俺様のことを覚えてないとは言わせねえぞ!」
 ちょっと傷ついたような顔をする少年。
 この腕力だけはありそうな少年が、連中の親玉なのだろう。
「あいにく、あんたの世話になった覚えはないな」
 レンは肩をすくめる。
「でかい口を叩くじゃねえか?」
 親玉の少年は笑った。
「今日こそいい返事を聞かせてもらうぜ」
「いい返事?」
「仲間になれよ。悪いようにはしねえ」
 ようやく思い出した。
 この親玉、何度かレンを仲間に入れようと、誘いをかけてきたことがあるのだ。
「嫌だね」
 レンは不良たちを押しのけて、袋小路から出て行こうとする。
 レンを、自分たちの仲間にしたがる不良少年の集団はいくつもあった。
 だが、レンは群れて乱暴を働くような連中の仲間に加わったことは一度もないし、これからもそうする気はない。
「悪党の仲間になるのはごめんだ」
「おいおい、笑わせんなよ? てめえだって悪党だろうが?」
 親玉は、なれなれしくレンの肩に手を回す。
「けど、暴力は振るわない! 自分よりも弱いやつ、貧乏なやつからは盗らない! お前らのやってることは、貴族たちと同じなんだよ!」
 その手をパチンと払うレン。
「くだらねえこと言うんじゃねえよ。世の中なあ、小ずるく立ち回って、金と力を手に入れたヤツの勝ちなんだよ。金と力さえありゃあ、みんなが一目置くだろが?」
 親玉は顔を歪ませて笑った。
「お前の親父だって、貴族にわいろさえ渡してりゃ捕まらずに……」
「!」
「おいおい、怒んなって」
 険しい表情になるレンを、親玉はなだめる。
「俺はお前のこと、ずいぶんと高く買ってるんだぜ? 手を組んで、たんまりもうけようじゃねえか?」
「何度も言わせるなよ。嫌だといったら、嫌だ」
 レンはくり返した。
「……お前、俺たちの仲間にならなかったら、いつもお前がつるんでるチビ、あいつがどうなるか分かってんだろうな?」