WEB限定 書き下ろし小説

騎士の資格

第一回

プリアモンドの場合

 地方視察。
 それは、白天馬騎士団の重要な任務のひとつである。
 雪がちらつき、灰色の雲が低くたれ込めるこの日。
 サクノス家三兄弟??本当は四兄弟なのだが??の長男プリアモンドは、北の国境に近い『カーウィン』砦にやってきていた。
 山奥にある『カーウィン砦』は、砦とは名ばかりの丸太小屋。
 ふだん、三人の騎士がここに住み、国境の警備に当たっているのだ。
「何か変わったことは?」
 プリアモンドは砦の前に馬を止めると、待っていた騎士たちに声をかけた。
「北方帝国に動きはありません。偵察部隊も、この半年ほどは姿を見かけません」
 砦の隊長を務める一番年上の騎士??といっても十七才だが??が報告する。
「だから退屈で退屈で」
 馬から下りるプリアモンドにそう言って肩をすくめたのは、一番年少の騎士。
 プリアモンドの末弟、ショーンとあまり年は変わらないだろう。
「おい、口をつつしめよ」
 隣に立つ、十五歳ぐらいの栗毛の騎士が、年下の騎士のわき腹をひじで小突いた。
「まあ、平和なのはいいことだ」
 半日ぶりに地面を踏みしめたプリアモンドは、肩に積もった雪を払う。
「実際に帝国が攻めてきたら、こんな砦はひとたまりもありませんしねえ」
 隊長が粗末な丸太小屋を振り返り、ため息をついた。
「だから、そんな時に君たちがすることは」
 プリアモンドは、若い隊長に砦の騎士の任務を確認させる。
「近隣の村の人々の避難させることと、王都の本部への報告です」
 即座に答える隊長。
「よろしい」
 プリアモンドは笑顔でうなずいた。
「他に問題はないか?」
「問題といっても……そうですね、あの窓が風でガタガタいうぐらいで」
 隊長は、丸太小屋の古びた窓を指さす。
 確かに板張りの窓はゆがんでいて、すき間風を防いでくれそうにない。
「よーし! 私が直そう!」
 プリアモンドは腕まくりをすると、窓のそばに向かった。
「できるんですか? やはり、サクノス家の騎士ともなると、できないことはないんですね」
 栗毛の少年騎士は、感心したようにたずねる。
「何とかなる??」
 プリアモンドは傾いた窓の枠を両手でつかむと、三人の騎士をチラリと振り返った。
「??はずだ」
「…………」
 騎士たちは一気に不安になる。
「この金具が……なるほど、曲がっているんだから……こうして」
 プリアモンドが、窓を正しい位置に直そうと力を込めた瞬間。