WEB限定 書き下ろし小説

われらサクノス家三兄弟!!

1

我ら、サクノス三兄弟!

「シャーミアン、参りました!」
「……入れ」
 団長室の扉の向こうから答えが返ってきた。
 扉に触れる前に、シャーミアンは緊張で汗ばんだ手を上着でぬぐう。
(これが最終試験)
 シャーミアンは自分に言い聞かせる。
(きっと、大丈夫)
 この面接で、すべてが決まる。
 また一年、がんばることになるのか、それとも、騎士への第一歩をふみ出すのか……。
 シャーミアンが白天馬騎士団の入団試験を受けるのは、これで七回目。
 毎年、武術の試験で落ち、面接にたどりついたのは、これが初めてである。
(……きっと大丈夫)
 シャーミアンはもう一度、心の中でくり返すと、団長室に入った。
 部屋には、四十代半ばぐらいの男性がひとり。
 正面の机の前に座り、書類を手にしている。
 この人物が騎士団長であることを、武術試験の時に遠くから見たので、シャーミアンは知っていた。
「君は今までに……連続で七回も、入団試験を受けているな?」
 書類を見ながら、騎士団長はシャーミアンに質問した。
 十六才というのは、騎士見習いである従者になるには決して早い年令ではない。
 たいていは十才前後。
 早い例では六才ぐらいで入団試験を受け、受かる者もいる。
「普通、一回目で不合格になればあきらめるものだが、どうしてかね? もっと楽に入れる騎士団もあるだろう?」
「はい! どうしても白天馬騎士団の騎士になりたかったのです! 父はこの騎士団の騎士でした!」
「知っている」
 騎士団長は小さくつぶやく。 
「……頑固そうなところがそっくりだ」
「は?」
「いや、何でもない」
 騎士団長は軽く手を振ると、次の質問をした。
「君は子爵だそうだな?」
「はい!」
 子爵というのは貴族としては、あまり高い身分ではないし、亡くなった父親が残してくれた財産も決して多くはなかった。
 団長はさっき、もっと入団が楽な騎士団があると言ったが、そういう騎士団に入るにはコネとなる高い身分や、多額の寄付が必要なのだ。
 もっとも、シャーミアンの場合、そんなコネやお金があったとしても、合格のために使おうとはしなかっただろうが。
「我が騎士団では、ただ、問われるのは実力のみ。実力のない者は、自然とここを去ることになる」
「はい!」
「……不幸にも実力をともなった者は、たとえ、やめたがってもやめさせはしないが」
 団長はつけ加える。
「はあ?」
「……まあ、よかろう」
 団長は書類を置いた。
「君は合格だ。本日を以って、君は我が白天馬騎士団の従者となる」
「あ、ありがとうございます!」
 シャーミアンは、自分の耳が信じられなかった。
 どうしてもかなえたかった夢。
 それが、やっとかなったのだ。
「分かっているとは思うが、従者になった以上、騎士の下について勉強してもらうことになる。明日、君の仕えることになる騎士に会わせよう。今日はもう帰ってよろしい」
 団長は扉の方を視線で示した。
「はっ!」
 シャーミアンは敬礼し、部屋を出ようとする。
「ああ、最後にひとことだけ言っておく」
 ドアノブを握るシャーミアンの背中に、団長は声をかけた。
「はい?」
「……後悔しても、もう手遅れだよ」