WEB限定 書き下ろし小説

ショーン、恐怖の一日!

「庶民の諸君! 聞きたまえ!」
 ある日の放課後。
『星見の塔(ほしみのとう)』の三階にある教室では、ショーンが教室の前に出て、その場にいた生徒たちによびかけていた。
 例によって、えらそうな態度である。
「われわれのそんけいすべき先輩であるトリシアがいる診療所(しんりょうじょ)だが、お客、じゃなかった、患者(かんじゃ)が少なく、今にもつぶれそうなことは、みんなも知っていると思う。」
 うなずく一同。
「そこでだ!」
 ショーンはバンッと黒板をたたいた。
「われわれで、あのトリシアを助けてやろうじゃないか!?」
「……トリシアの診療所がびんぼうなのって、いつものことじゃない?」
「ひまなんだ、ショーン。」
「ショーンってさ、たいくつすると変なことばかり思いつくよね?」
 あきれ顔でヒソヒソ話をする女の子たち。
「どうして、あたしたちがそこまでしてやらなくちゃならないのよ!?」
 真っ先に反論したのがベルである。
「あたし、今日はいそがしいの! 新作の指輪を買いに、これから東街区に行く予定だし!」
「いや、日頃からトリシアには、世話になっているだろう?」
「なってない、全っ然なってない……。」
 トリシアに関わって、ロクな目にあった記憶がないベルは声をふるわせる。
「……むしろ……お世話……してる。」
 同意するアーエス。
「うむむ。そういえば、そんな気も……。」
 ショーンはぎゃくに説得されそうである。
「だよねえ。」
 他のみんなもうなずく。
「ま、まあ、ともかく。あんなボロっちい診療所でも、なくなるとこまる人がいるんだ。……ていうか、診療所がつぶれてトリシアが野放しなったら、結局、ぼくらにめいわくがかかるじゃないか?」
「それもそうか?。」
 一同はこれでなっとくした。
「でもそれって、診察してもらいに行けってこと!?」
 女の子のひとりが、恐怖に顔を引きつらせる。
「そんな、命がけなこと!」
「それだけはカンベンして!」
「ほ、他に何かいい方法があるはずよ!」
 ざわつく教室。
 みんな絶対に、トリシアの患者になることだけはえんりょしたいようだ。
「いや、そこまで無謀(むぼう)なことはぼくだって言わない。」
 ショーンはみんなをなだめる。
 というか、ショーンが一番失礼である。
「……じゃあ、具体的にはどうするつもりよ?」