WEB限定 書き下ろし小説

守りたいもの ~レンの気持ち~

1

 春がもうすぐそこまで近づいていた、ある日。
 よく晴れた午後の中庭では、任務の合間にサクノス家の三兄弟が剣の訓練をしていた。
 たまたま来ていたレンも参加している。
 今、試合をしているのはエティエンヌとレン。
 レンが剣を低く構えたまま進み出ると、エティエンヌは目にも留まらぬ早さで右に回り込み、剣を弾き飛ばしていた。
 剣はクルクルと宙を舞い、芝生に突き刺さる。
「ああ、くそ!」
 負けたレンよりもくやしそうな声を上げたのは、トリシアと二人で見学していたシャーミアンだ。
「がんばったね~」
 勝ったエティエンヌがレンに声をかけた。
「惜しかったな」
 プリアモンドもそう言ってうなずく。
「なぐさめてくれなくたっていいよ」
 レンはため息をついて芝生から剣を抜き、その切っ先をリュシアンに向けた。
「もう一回! 今度はリュシアンだ!」
「プリアモンドに二敗、俺に二敗、エティエンヌに二敗。合わせて七連敗。いい加減にあきらめたらどうだ?」
 練習場の柵に座り、頬杖をついて見ていたリュシアンが呆れたように肩をすくめる。
「もういいでしょ? 別に剣で勝てなくたって。レンには他にいいとこがあるんだし」
 トリシアもレンを止めようとする。
「他にって、なんだよ?」
 と、レン。
「ええっと……」
「そうさ。僕には何もない」
 レンは剣を投げ捨てると、トリシアに背中を向けて練習場を出ていった。