WEB限定 書き下ろし小説

ショーン、恐怖の一日!

「……アーエスちゃ?ん。」
 ベルは笑顔をうかべて、アーエスに近づく。
「あたしたち、親友よね? それ、あたしに使わせてくれないかな??」
「…………。」
 身のきけんを感じたアーエスは後ずさる。
「いいからよこしなさい! それ、あたしがレン先輩に使うんだから!」
 ベルはアーエスのかたをつかんだ。
「!」
 プシュ!
 思わず、ギュッとビンをにぎってしまうアーエス。
 その拍子に薬がふき出し、ベルの顔にかかった。
「きゃ!」
「な、何をしているのだ?」
 ちょうどその時。
 とびらが開いて、実習室にもどってきたショーンが、当惑しながらベルたちに声をかけた。
「あ、ショーン?」
 アーエスはふり返る。
 すると……。
「…………ショーン様ぁ?。」
 顔をハンカチでぬぐっていたベルは、とろりとした目つきになって、ショーンのほうに足をふみ出した。
「へっ?」
 ショーンの表情が引きつった。
「……まさか?」
 そのまさかである。
 ほれ薬を浴びたベルは、最初にショーンの名前を耳にしてしまったのだ。
「ああ! あたしのショーン様! いとしいいとしいショーン様!」
「あわわっ!」
 ベルはショーンに飛びつくと、いきなりキスしようとする。
「うぐぐっ!」
 必死になって顔をそらすショーン。
「ふふふ、照れちゃって?。」
「いや、そういうんじゃなくって! ベル、ぼくらはただの友だちだろ!?」
「う?ん、かわゆ?い!」
 ドタッ!
 あお向けにたおれるショーンの上に、ベルがのしかかる。
「一般庶民の生徒諸君! だ、だれでもいいから助けてくれ?!」
 ショーンは手足をドタバタさせるが、にげることはできない。
 体力では完全に、ベルのほうが上のようだ。
「……この薬、やっぱり使うの、考えちゃうよね。」
「そうね。ここまで強力だと、ロマンティックじゃないし。」
「さ?てと、そろそろ帰ろっかな。」
「あたし、宿題やらないきゃ。」
「明日、『魔法数学』の問題、当たりそうなのよね?。」
 実習室を出ていくみんな。
「こら?、お前たち、冷たすぎるぞ?!」
 ショーンはなさけない声を上げた。
「……日頃の行いが……悪いから。」
と、アーエスがもっともな意見をのべる。
「さあ! ショーン、キスするの!」
「いやだ?っ。」
「……どうして?」
 ベルは突然、悲しそうな顔になった。
「あたしが……きらいなの?」
「い、いや、だからさ!」
 ウルウルしたひとみに見つめられ、ショーンはこまり果てる。
「……面白く……なってきた。」
 ふだん、無表情なアーエスは、二人の前にイスを持ってきてすわると、口元にほんの少し、笑みをうかべた。