WEB限定 書き下ろし小説

ショーン、恐怖の一日!

そこに書いてあるのは、ほれ薬の製法。
 つまり、相手に好意をいだかせる薬の作り方だ。
「そ、そうかな?」
 首をかしげるショーン。
「……思いっきり、よこしまな意図を感じるのだが。」
「アムリオン王国で……一番……よこしまな少女……その名は……ベル。」
「あんたにだけは言われたくないわ! とにかく、みんな! 五階の実習室に行って、薬を作るわよ!」
 ベルは宣言した。

 実習室に移動したみんなは、ほれ薬の材料をそろえ始める。
「ふだんよりも、女の子たちが生き生きしているように見えるのは、気のせいだろうか?」
 いそがしく動きまわる少女たちを見て、ショーンはつぶやく。
「立場ないよね、ぼくたち。」
 男の子たちは顔を見合わせた。
 そして。
「……できた?っ!」
 ふだんの授業の実習よりも、ず?っと早く、薬は完成した。
「やった?っ!」
 歓声を上げる女の子たち。
 つくえに置かれたビンにつめられているのは、ピンク色の透明な液体で、かすかにバラのかおりがただよってくる。
「毒じゃなさそうだな。」
 薬をながめて、ショーンが感想をのべた。
「で、これの使用方法は?」
「好きになってほしい相手の名前を言いながら、ふきかければいいのよ。薬を浴びて、最初に名前を耳にした人のことが好きになるわけね。簡単でしょ?」
 ベルはそう言って、たまたま持っていた香水の空ビンに薬をつめた。
「その『魔法秘薬学』の本は返してきて。ひみつで作ったのが、先生やレン先輩にバレないように。」
「う、うむ。そうだな。」
 すっかり女の子たちに主導権をうばわれたショーンはうなずき、本をかかえて実習室から出ていった。
「……さてと、次は。」
 じゃまをしそうなショーンが消えると、ベルはかみをかき上げて女の子たちを見わたし、香水のビンに手をのばす。
「この薬が本当にきくかどうか、試してみないとね。」
「ちょ、ちょっと待ってよ! ベルが最初に使うわけ!?」
「当然でしょ。」
「ずっる?い! わたしも使いたい!」
「わたしだって!」
「わっ! よしなさいよね!」
 たちまち始まる薬の取りあい。
「こ、こわい。」
 男の子たちはみんな、実習室のすみっこで固まって、小さくなっている。
 そして。
「いただき……。」
 もみ合うみんなの間をすりぬけ、ビンをつかんだのは、身体の小さいアーエスだった。