WEB限定 書き下ろし小説

海水浴へ行こう!

4

 一方。
「んー、もう少しってところか?」
「全然だな、ピンクはあり得ない」
「あはは、残念賞ー!」
 サクノス家の三兄弟は、シャーミアンを見てからかっていた。
「こ、こっちを見るな!」
 真っ赤になったシャーミアンは背中を向けて怒鳴るが、可愛い水着が着られたので、結構うれしそうだ。
「久しぶり、王都を離れるのは……実際には離れてないんだけど」
 くつろいだ様子で、ゆっくりと背泳ぎするのはアムレディア。長い黒髪がフワリとさざ波に広がり、小さなエメラルドの粒をまぶしたように輝く。
「私、もぐれません」
 人形のミラはバシャバシャ水をかきながら言った。
「木製だからね」
 と、笑うレン。
「ところで、シュネーは?」
 豪快にクロールするペンギン執事に、あたりを見渡したレンが声をかける。
「姫様がこのような熱帯に来られるはずがなかろう! みなの者に、姫様からの伝言である! バーカバーカ! ……だそうだ」
 ペンギンは吠えた。
「意外とひがみっぽい子よねえ」
 と、ベル。
「……甘い……来たら……とけるくせに……」
 貝がらを山ほど抱えたアーエスが、首を横に振る。
「で、どうしてあんたはそのお姫様を差し置いて、ここに遊びにきてんのさ? そもそもペンギンって、寒いとこに住む鳥だろ?」
 セルマが尋ねた。
「この万能執事である我が輩は、全天候型ペンギンである! 極寒の凍土から常夏の島まで、どこでも暮らせるのだ! まさに、ぜっんてんこーがたっ!」
 ペンギンは腹を上にして、水上でクルクルと回転して見せた。
「……やっぱり、暑さに耐えきれなかったのですわね」
砂浜で城を作りながら、キャスリーンは言った。 
「ほら!」
 こっそり後ろから忍び寄り、バシャッとレンに水をかけるトリシア。
「やられたら、やり返す!」
 レンもトリシアに水をかけると、二人は顔を見合わせて笑いだした。
 ギラギラした日差しのもとでも、水の中では暑さはやわらぐようで、みんな気持ちよさそうだ。
 こうして。
 トリシアたちは、猛暑の午後を快適に過ごすことができたのである。