WEB限定 書き下ろし小説

セドリックVSおしゃべりフクロウ!!

3

「ここって盗みに入るのはいいんだけど、高く売れる物ってないんだよね。変なのばっかしで」
 深夜のセドリックの屋敷の広間に、またまた??というか、もう何十回もここには入っているのだが??おしゃべりフクロウの姿があった。
「この大理石の像も、何に使うんだろ?」
 そういって首を傾げるおしゃべりフクロウの前には、セドリック自身の巨大な像がある。張り紙がしてあり、そこには『素晴らしき中庭の噴水用』と手書きの文字があった。
「うわ、絶対こんなのいらない」
 次に目をやったのは、白鳥を抱きかかえたセドリックの肖像画。
 怒った白鳥に突つかれて、涙目になっているのが情けない。
「はっ! もしかして、あたしってここからゴミを持ち出して捨ててるだけの、親切な人だったり?」
 それどころか、おしゃべりフクロウは盗みだした品を、いつも悪徳商人のマイルズに売りつけているのだが、このセドリックの家から盗んだ品物は、逆に引き取り代を取られてしまうことが多いのである。
「もう帰ろうかな? どうせガラクタしかないんだし」
 と、おしゃべりフクロウがつぶやいたその時。
「失礼なことを言ってはいけないよ! 言葉づかい、うちのママはきびしいんだ」
 ランプを持った人影が、扉の所に立った。
「怪盗おしゃべりフクロウ! 今日こそ君の最後の日だよ!……ふああ」
 一回転してポーズを取るセドリック。眠そうなのは、このところずっと、寝ないでおしゃべりフクロウを待ってたせいである。
 これを見たおしゃべりフクロウは、逃げようとするかと思いきや。
「!」
 つかつかとセドリックに歩み寄ると、手を握った。
 よく見ると、瞳がうるんでいる。
「あたしの名前、覚えてくれてる人がいたああああ!」
 おしゃべりフクロウは、握った手をぶんぶんと振る。
「なんかこのところ、自信がなくなってたんだよねえ! あたしの真似するヘボ医者とか、わざとかと思うくらい名前間違うし! いっそ、もっと分かりやすい名前に変えようかって、候補まで考えてたんだよ!」
「……どんな?」
 ちょっと興味を覚えたセドリックは聞いてみた。
「ちょっと相談に乗って。まずね、赤いハヤブサ」
 おしゃべりフクロウはメモを取り出して読み上げる。
「なんで赤?」
 と、セドリック。
「ついでにこのマスクも真っ赤なのに変えようかと思って」
 自分の覆面を指さす。
「あと考えたのが、幸せ七色仮面とか、恋のキラキラ泥棒とか、書き置きがあったらあたしだよ盗賊とか」
「……あのだね」
 セドリックは咳払いした。
「君は盗みにここに入ったんじゃないのかな?」
「うわああああ、そうだった! すっかり忘れてた!」
「怪盗赤いハヤブサ、ここに参上! お宝をいただくよ!」
 おしゃべりフクロウ改め、赤いハヤブサ(仮)は一歩下がってウインクし、決めポーズを取る。
 すると。
「待った! 盗む前に何を盗ったのか、メモをして残してくれ。でないと、僕が騎士団の怖ーいお姉さんに怒られるのだ」
「うん。いいけど」
 おしゃべりフクロウは頷き、紙にさらさらと書く。
「今までにここから盗ってったのこんな感じ。でもって、今夜は」
 おしゃべりフクロウはセドリックの顔が浮き彫りになった純金製のカップを手に取る。
「これにしよっと。これデザインはひどいけど、つぶしちゃったら金は金だもんね」
「わははははは! そうはいかないんだもんね!」
 セドリックは高笑いすると、壁のレバーを引っ張った。
「ちょっと! 何すんのよ! そのレバー、さっきから怪しいと思ってたんだけど!」
 おしゃべりフクロウがあわててセドリックに駆け寄ろうとしたその時。
 床が大きく二つに割れて、おしゃべりフクロウは真っ暗な穴の中に落ちていった。