WEB限定 書き下ろし小説

見習い騎士の悩み

5

「怪しいクスリって?」
「うふふふふ、トリシアちゃん、それはきっとこれのことよ」

レンの背中の方で、女の子たちの声がした。
三兄弟とレンが振り返ると、そこに立っていたのはトリシアと、ガラスビンを手にしたアンガラドだった。
ガラスビンにはコポコポふっとうする紫の液体が入っていた。
「ト、ト、ト、ト、ト、トリシア!? なんでここに?」
レンは後ずさりする。

「今日はアンガラドの手伝いだよ」
トリシアは肩をすくめ、レンの右手にチラリと目をやった。
「それ、早めに手当した方が良さそう」
「い、いいよ! 大したことないし!」
レンはトリシアに背を向ける。

「まあまあ、そんなこと言わないで〜」
アンガラドが不気味な笑みを浮かべ、レンの手首を握った。
アンガラドの力は強く、レンは振り解くことができない。
「ちょっと! 見てないで助けて!」
レンは三兄弟を振り返った。
「……すまん、巻き込まれるのはごめんだ」
プリアモンドが目を伏せる。
「騎士たる者が、助けてなどと言うものじゃない」
リュシアンも、間に割って入る気はなさそうだ。
「ううう、お達者で〜」
エティエンヌは、ハンカチで目元をぬぐいながら手を振った」

「まあまあ、美少女二人の手当を受けられるんだから、光栄でしょ?」
「うふふふふふ、新しいクスリ、試してみましょうね〜」
トリシアとアンガラドはレンの腕をガッチリとつかむと、医務室に引きずってゆく。
「いやだあああああ〜!」
レンが自分に合った武器を手に入れられる日は、まだまだ先のようだった。

おしまい