WEB限定 書き下ろし小説

スペシャル企画 南房秀久先生 HP限定書き下ろし 恋愛、タルト、ショーンの災難!!

 というわけで。
 授業(じゅぎょう)は終わったというのに、ショーンとアーエスは『星見の塔』にもどってきていた。
「ええと、レンどのはこの時間、いつも実習室にいるな。」
 らせん階段(かいだん)を上りながら、ショーンはアーエスをふり返る。
「トリシアの診療所(しんりょうじょ)に……遊びに行っていなければ……。」
 二人は、五階にある実習室に向かった。
 ここは、魔法の練習に使う教室で、他の教室よりは丈夫(じょうぶ)にできているのだ。
「……ええと、ここの呪文(じゅもん)に省略形(しょうりゃくけい)を用いることで。」
 レンはアンリから借りた魔道書(まどうしょ)を見ながら、呪文の研究に没頭(ぼっとう)していた。
「こっちの呪文は古代語だから、その相乗効果(そうじょうこうか)は……うわ、このままじゃだめだな。唱えたとたんに大爆発(だいばくはつ)。これじゃまるでトリシアだ。」
「かなり……失礼なこと……言ってる。」
 実習室をのぞきこんだアーエスは、かたをすくめる。
「でもまあ、事実だしな。」
と、ショーン。
 およそトリシアの魔法は、予想外の効果しか引き起こさない。
 これは、『星見の塔』の生徒全員の、一致(いっち)した意見だ。
 そうショーンとアーエスが話していると、レンのほうが二人に気がついて声をかけてきた。
「どうしたんだい、何か用?」
「そうそう。用があるのだ。」
 ショーンはうなずく。
「魔法のこと? ぼくでいいんなら。」
 レンは読んでいた魔道書の革表紙(かわびょうし)を閉(と)じた。
「いや、そうではなくて。レンどの、ベルみたいな女の子は……ふがっ!」
 ベルみたいな女の子は好きか、と聞こうとしたところで、あわててアーエスがショーンの口をふさいだ。
「いきなり……本題……ダメ。」
 もともと小さな声を、さらにひそめるアーエス。
「それとなく……遠回しに……会話の流れで……。」
「……ぶはっ!」
 ショーンは窒息寸前(ちっそくすんぜん)でアーエスの手を口からどけ、反論(はんろん)する。
「ええい! サクノス家の者がそんなまだるっこしいことができるか! 正面から切りこむのが騎士の道!」
「ベルが……おこる……よ。」
「はい。それとなく聞きます。」
 ショーンはあっさり方針(ほうしん)を変更(へんこう)した。
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「……どうしたんだい、ベルがなんとかって言いかけてたけど?」
 二人の様子を見て、レンがたずねる。
「いや?、ベルが一緒じゃなくて残念だ、という話なのだ。あははははは!」
 胸を張って笑い、無理やり取りつくろうとするショーン。
「そうだね。三人、いつも一緒なのに。」
 レンはほほ笑む。
「と、ところで、レンどの。」
 ショーンはせきばらいをすると、裏返(うらがえ)った声でたずねた。
「どういう女の子が好みかな?」
「ああ……もう……それ……全然……遠回しじゃない。」
 手で顔をおおってしまうアーエス。
「女の子かあ。」
 レンは困ったような顔をする。
「今は魔法の修業(しゅぎょう)で手いっぱいで、それどころじゃないんだけど。」
「そ、そこをなんとか!」
「そうだなあ……ええっと。」
 考えこむレン。
「う?ん、特に……これといって……好きになっちゃったら、どんな仕草もかわいく見えるだろうし…困ったなあ。」
「ええい、じれったい! 具体的に聞くから、はっきり答えてほしい!」
 あまりにもレンの態度(たいど)がにえ切らないので、しびれを切らせたショーンはつめ寄った。
「きれいな子は、好きか、きらいか!?」
「き、きらいじゃないよ。」
 レンは思わずのけぞりながら、正直に答える。
「外見はあまり気にしないけどね。」
「優等生的(ゆうとうせいてき)な……回答……つまらない。」
 ガッカリしたような顔をするアーエス。
「あのさ、面白い答えを期待されても……。」
という、レンの言い分は無視(むし)される。
「では、次の質問(しつもん)だ。頭のいい子はきらいか、好きか!?」
 ショーンは続ける。
「知的な人は好きだけど、がんばって勉強している子なら、成績(せいせき)のいい悪いは関係ないかな?」
 これもまた、ありきたりな答えだ。
「また……みんなに……気に入られようとして。」
「そ、そんなんじゃないったら!」
と、困り果(は)てるレンに、ショーンはさらにたたみかける。
「性格(せいかく)は!? わがままで、生意気で、口が悪くて、根性(こんじょう)が曲がってて、人を人とも思わず、世の中で一番、自分が優(すぐ)れていると思っているような子は好きか!?」
「……ショーン……そこまで言うと……ベルのことだって……バレる。」
 アーエスが頭をふる。
「……ベル? そうか、ベルにたのまれたのか?」
 ベルの名を聞いて、すべてを理解(りかい)したレンはふき出した。
「何!? 性格がメチャクチャ悪いと聞くだけでベルだと分かるとは! さすがは『星見の塔』でもこのぼくが一目置くレンどのだ! うむむ、あなどれん!」
 おどろくショーン。
「……いや、あのさ。今、アーエスがベルって言ったし。」
 これでおどろかれても、レンは困るのだか。
「作戦(さくせん)……失敗……さようなら……レン。」
 アーエスはていねいにレンにおじぎし、ショーンのうでをつかんだ。
「帰る……よ。」
「え、なぜだ? まだ聞きだせていないぞ?」
と、ショーン。 
「いいから。」
「わっ! ちょっと!」
 アーエスは有無を言わせずショーンを引っ張り、実習室を後にした。