WEB限定 書き下ろし小説

出逢い~星見の塔誕生

後編

「はい、私の授業はこれで終わり」
 アムレディアがレンを解放したのは、それからしばらく経ってのことだった。
「レン、アンリに挨拶は?」
 アムレディアに促されたレンは、アンリの前に出る。
「これからよろしくお願いします」
 この短い時間で何があったのか、今までとは全然違う、ていねいな言葉づかいでアンリにペコリと頭を下げたレンは、かなりやつれた表情だ。
「よろしい。よくできました」
 満足げにうなずくアムレディア。
「……レン、大変だったな」
 アンリは同情を隠せない。
「いえいえ、そんなことはありませんよ。王女様は、とても親切に、正しい言葉づかいを教えてくださいました。あははは」
 そう笑ったレンの目は、うつろである。
「では、がんばってくださいね、アンリ先生」
 王女はアンリに声をかける
「先生……って、ぼくが!?」
 思わず自分を指さすアンリ。
「あら、先生でしょう? 弟子を取るのですから」
「せ、先生、かあ」
 アンリは複雑な表情だ。
「十三歳で、先生っていうのもなあ」
「これであなたも、私に断りもなく王都を去ることはできなくなりましたね」
 アムレディアはクスリと笑ってから、とがめるような視線をアンリに向ける。
「……え?」
「セルマから聞きました」
「あのおしゃべり」
「そんなに私の泣き顔が見たいのですか?」
 悲しそうな顔をするアムレディア。
「い、いや……ごめん」
「もう二度とごめんですよ、あなたを失うのは」
「あ、あの、王女様、アンリ」
 と、二人に声をかけるレン。
「俺、じゃなくて、僕、もうひとつ頼みがあるんですが」
「何かしら?」
「パットも一緒に修業させてくれ……じゃなかった……させて欲しいんです」
 レンは言葉に気をつけながら言った。
「パット?」
「レンの友だちだよ。女の子、前に一度見ているはずだよ」
「……ああ」
「あの子も居場所がないんだ」
「二人で……支え合って生きてきたのね」
 アムレディアはふと、何か思いついたように目を輝かせた。
「分かったわ。塔を学校にしましょう」
「学校に!? ちょ、ちょっと大げさじゃないか?」
「でも、学校にすれば、たくさんの子供たちを受け入れられるでしょう? 戦争で身寄りを失った子供たちは、まだまだいるはずだわ」
「だけど、僕にできるかな?」
「忘れたの?」
 アムレディアはアンリの腕を取った。
「あなたはこの国を……私を救ってくれた人なのよ」
「アム……」
「それに、できる、できないじゃないわ。やるか、やらないかよ」