WEB限定 書き下ろし小説

フローラ、七つの海へ!

「みんな、潜水艇を用意して! 早く!」
 オーウェンが船員たちに声をかける。
「了解!」
 船員たちは鎖を使い、甲板の上に小型の潜水艇を引き上げた。
 パラケルススが作った、『水の下を進む船七号』である。
 ちなみに、一号から三号、五号と六号はみんな最初の航海で沈没している。
「ちょっと、どうするの!?」
 フローラが目を丸くして問いただす。
「フランチェスコがあんなんだったら、僕らがなんとかするしかないだろう?」
 オーウェンは潜水艇のハッチを開けて乗り込んだ。
「!」
 フローラは閉めかけられたハッチの隙間から潜水艇にすべり込む。
「お、おい!」
 驚くオーウェン。
「どんな時でもいっしょ、でしょ?」
 フローラはオーウェンの隣に、肩をくっつけるようにして座った。
「……この潜水艇、完成したばかりでさ。海に潜るの、これが初めてなんだけど?」
「やっぱり外に出して!」
 だが、潜水艇は水に潜り始めた。
 というか、沈み始めた。
「もう手遅れ」
「あなたねえ!」
 フローラはオーウェンの胸倉をつかんだが、潜水艇はどんどん沈み続けている。
「こ、これ、大丈夫なんでしょうね!?」
「どうかな?」
 フローラにしがみつかれたまま、オーウェンは潜水艇を操作した。
 潜水艇の前についたランプが海中を照らす。
 賢者の石を動力に使った潜水艇は、水面に近くまで浮き上がると、貿易船を追いかけた。
「脅かさないでよ! ちゃんと動くじゃない!」
 ほっとするフローラ。
 だが、潜水艇が貿易船の後部に回ったとたん。
「!」
 二人の目に、信じられないものが飛び込んできた。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あれ何よ!」
 貿易船の舵の部分に何かがからみつき、うねうねと動いていた。
「あれが船を引っ張っているのか?」
 オーウェンがランプの明かりを向けると、胴体の太さがフローラの身長ほどもある海ヘビが照らし出される。
「……気、失っていいかしら?」
 目まいを覚えたフローラは、オーウェンの袖をギュッと握った。