WEB限定 書き下ろし小説

発表!レンの新魔法!?

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翌日の「三本足のアライグマ」亭。
「ほら、わたしが珍しくおごってあげるんだから、元気出しなさいって」
 トリシアは、テーブルに突っ伏しているレンの前にラズベリーのパイを置いた。
「……酸っぱいのは嫌いだ」
 すねたレンは突っ伏したまま、顔を横に向ける。
「うわ、子供みたい」
 トリシアはそう言うと、いったんレンのところに置いたパイを引き寄せ、一口かじる。
「キャットの言ったことなんて気にしないの。レンはちゃんと勉強してるんだから、いつかきっと、アンリ先生みたいな偉大な魔法使いになれるって……たぶん」
「そうですかあー?」
 仕事をさぼってつまみ食いをしていたフィリイが、話に割り込んできた。
「アンリ先生はかっこよくて人気があるのに、一番弟子を名乗るレン君って、なーんか、いまひとつって感じがしますよねえ」
「せっかくわたしが立ち直らせようとしてるのに、邪魔しないでくれる?……ていうか、フィリイ。まさかあなた、アンリ先生を狙っているんじゃ?」
 眉間にしわを寄せるトリシア。
「甘いですね、トリシアちゃん」
 フィリイは人さし指をチッチと振る。
「この街のカッコいい男の人は、みーんな私のものです」
「何言ってるんだい、この子は!」
 そのフィリイの後頭部を平手でペチンと叩いたのはセルマだった。
「油売ってないで、働きな!」
 セルマはモップをフィリイに突きつける。
「今月も、お給料なしでいいのかい?」
「ううー、今月はまだお皿、八十枚しか割ってませんよー」
 フィリイは唇を尖らせる。
「その代わりに、キッチンのオーブンをぶっ壊しただろ? あたしゃあんたを雇い続けてる自分の人の好さに、涙が出そうだよ」
 セルマはこめかみを押さえた。
「……ここを追い出そうなんて、ひどいこと考えてませんよね?」
 フィリイは顔色をうかがう。
「……どうしようかな?」
「フィリイちゃんは世界一の働き者ですよー! ほら、ほら!」
 フィリイは慌ててモップを握り、床を磨き始めた。