WEB限定 書き下ろし小説

発表!レンの新魔法!?

3

しばらくして。
「でもー、正直、アンリさんとレン君の実力の差って、どのくらいあるんですか?」
 モップを床の上で適当に動かしながら、フィリイはトリシアに尋ねていた。
「……計り知れない」
 額をテーブルにくっつけたまま、レンが答える。
「七つの魔法員の魔法の全部が使えて、自分で編み出した魔法もたくさんあって、その上、剣は永遠の騎士と呼ばれた剣士ハレック仕込みで、騎士も顔負けの腕前。武術大会の優勝者だし、楽器も歌も上手い。かなう訳がないんだよ、きっとこの先、何年、何十年経っても」
「……いったん落ち込むと、レンってけっこー長引くよね」
 五つ目のパイを頬張り、カモミール・ティーのカップを口に運んだトリシアは眉をひそめた。
「別にいいじゃない。今は先生にかなわなくたって」
「ダメなんだよ、それじゃ」
 レンはようやく、頭を起こした。
「ただ、憧れているだけは、もう嫌なんだ」
「……そんなこと言うのって、お腹減ってるからだったり?」
 トリシアは食べかけのパイ??六つ目??の皿を渋々レンの方に押しやる。
「あのね、君じゃあるまいし!」
 と、思わずレンが髪をかきむしったその時。
「レン、ここにいたか!?」
「三本足のアライグマ」亭に、白天馬騎士団のプリアモンドが飛び込んできた。
「やっかいな連中が現れた! 手を貸して欲しい!」
「アンリ先生は? 先生に頼めばいいじゃないか?」
 レンはまだすねている。
「アンリは王女に貴族会議に引っ張り出されていて、間に合いそうにない」
「けどなあ……」
「わたしが行く!」
 渋るレンに代わって、トリシアが立ち上がった。
「君は人間以外の生き物と会話ができるから、いてくれると助かるが……今回は危険かも知れない」
 プリアモンドは眉をひそめる。
「魔法が使える人間が必要なんでしょ!?」
 と、トリシア。
「……分かった。来てくれ」
 プリアモンドは頷き、レンを振り返った。
「これから東の街門に向かう。君もその気になったら来て欲しい」
「ちょっとお聞きしますけど、リュシアンさんも行くんですかーっ?」
 瞳をキラキラさせ、話に割り込んだのはフィリイである。
「ああ、もちろん」
 プリアモンドはそう答えると、トリシアと一緒に店を飛び出す。
「……ついて行こっと」
 フィリイはモップを置くと、コウモリに変身し、こっそりと後を追った。