WEB限定 書き下ろし小説

発表!レンの新魔法!?

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「見てくれ、あれを」
 昼間は常に開いているはずの東の街門が、今日に限って厳重に閉じられていた。
 プリアモンドはトリシアを連れて街門の塔に登ると、門の外、街壁に集まっている生き物の群れを指さす。
「ゴブリン!?」
 トリシアがそちらを見ると、何百匹ものゴブリンたちが、外壁を形作っている石を壊し、どこかに運ぼうとしていた。
「あ、あんなにたくさん?」
「今朝、突然現れて、壁の石を外し始めたんだ。衛兵が門を閉じたので、街の中には進入されていないが」
 リュシアンが説明する。
「ちょっと何してるのよ!? 街を壊すつもり!?」
 トリシアは塔から身を乗り出して、ゴブリンたちに怒鳴った。
「壊しているのではないぞー! ちょっとだけ、石をもらっているのだ!……無断で」
 他のゴブリンより頭ひとつ背の高い、親玉らしいゴブリンが、トリシアを見上げて怒鳴り返す。もちろん、ゴブリンの言っていることが分かるのはトリシアだけだ。
「石なんかどうするの!?」
 トリシアはプリアモンドたちに通訳してから、親玉ゴブリンに尋ねた。
「この前、大王様の誕生パーティがあったのだ!」
 と、親玉ゴブリン。
「飲んだり食ったり踊ったりの大騒ぎ! でもって、酔っぱらった連中が大暴れして、宮殿が崩れてしまったのだ! 大王にこれがバレたら、俺たちはものすごく怒られる! だから、大王が寝てて、気づかれないうちに宮殿を建て直すのに、石が要るのだ! それもたーくさん!」
「そんな石、どこかの山から採ってきなさいって! 街の壁石を盗むんじゃないの!」
「盗む方が楽だー」
 親玉ゴブリンとトリシアが話している間も、他のゴブリンたちは街壁を壊し、石を運び続けている。
「ほらほら、早く運べ!」
「なんてやつら!」
 トリシアはプリアモンドを振り返って、首を横に振った。
「だめ、話し合いにならない」
「やはり、騎士を外に出して追い払うしかないな」
 リュシアンが背負っていた弓を手にし、配下の騎士を連れて、街門を開きに向かう。
「邪魔されてたまるか! 者ども、かかれー!」
 親玉ゴブリンが号令をかけると、ゴブリンの一団は、石斧や銅の剣を構えた。
 騎士たちも槍をかかげ、門から飛び出す。
「こんなつまらんことで、ゴブリンの国と戦争を始める訳にもいかない。なるべく怪我をさせずに取り押さえろ」
 命じるのはリュシアンだ。
 しかし、コブリンは小さくてすばしっこいが、騎士たちは重い鎧を着ているの動きが機敏ではない。
 さらに三十人ほどの騎士に対して、ゴブリンは十倍ほどもいるのだ。
「こういう時に限って、どうしてシャーミアンがいない? あいつに全部押しつけてしまえば楽なのに」
 ゴブリンの群れに囲まれ、リュシアンは頭を振る。
「仕方ないだろう! エティエンヌのお目付け役として、国境の視察についていったんだから!」
 背中にしがみつくゴブリンを振り落としながら、プリアモンドが答える。
「ああもう! これじゃ魔法が使えない!」
 塔の上に残ったトリシアは、火の球でゴブリンを??いちおう、なるべく安全に??吹き飛ばそうとするが、戦っている騎士たちを巻き込んでしまいそうで、上手くいかない。
 さらに。
「騎士どもに抵抗をやめるように言え、白衣の小娘!」
 親玉ゴブリンが、トリシアに向かって声を張り上げた。