WEB限定 書き下ろし小説

名コンビ誕生? へんてこ貴族セドリック&ドラゴン少年ライム♪

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「その通り! アネット嬢は白鳥に変身して歌うのさ! その歌う姿の美しいことといったら、僕の次か、その次ぐらいだよ」
 セドリックは根拠もなく威張る。
「吸血鬼に人魚、雪の乙女にメデューサ、スピンクスに、白鳥の乙女。この街には、ドラゴンぐらいで驚く人間なんかいないよ」
 エリエットが指折り数えて笑った。
「どこに行ってもこの街みたいだったら、楽しいんだろうなって思うわ」
「つらい目に遭うこともあったんですか?」
 笑顔にかすかによぎった寂しそうな色に気がついて、ライムはたずねる。
「うん。見慣れてない人たちにはやっぱり恐ろしいんだろうね。アネットなんか、気味が悪いって石を投げられたこともあったんだよ」
 エリエットはうなずいて、自分より年下の団長の腕にそっと触れる。
「許さん! どこのどいつだ!? この僕がそいつをこの剣で叩きのめして、君に謝らせて……謝らせ……謝ら……ふんぬっ!」
 セドリックはすらりと短剣を抜き放ってポーズを取ろうとしたが、抜けなかった。宝石に飾られた短剣を常に持ち歩いてはいるものの、腕前の方はショーンとどっこいどっこいであるセドリック。実際に短剣を使う機会など、今までほとんど機会がなかったものだから、とっくの昔に鞘の中で錆びついているのだ。
「いいよ、気持ちだけで。昔のことだし、だいたい、この国でのことじゃないもの」
 と、セドリックをなだめるエリエット。サーカス団はアムリオンだけではなく、世界の各国を巡っている。そうした国の中にはまだ、自分たちとは違う者たちに心を開こうとはしない人々が多い地域もあるのだ。
「セドリック君、今回もまた見に来てくれるの?」
 アネットがたずねる。
「もちろんだ!」
 剣を放したセドリックは、ポンと手を打った。
「そうだ! せっかくの月食祭なのだから、今回は王都中の子供たちを招待するとしよう!」
 セドリックは大きく手を広げる。
「そう! 数千人の子供たちがテントを埋め尽くして、この僕の優しさと気前の良さを讃えるのだよ! 素晴らしい!」
「あのさ。うちのテント、そんなに人数入らないって」
 エリエットが肩をすくめると、釣られたようにアネットも笑う。
「……いい人なのかなあ?」
 ライムはようやく、セドリックが人間としてはちょっと変わった存在であることに気がつきつつあった。