WEB限定 書き下ろし小説

名コンビ誕生? へんてこ貴族セドリック&ドラゴン少年ライム♪

7

「さて、この西街区には、白天馬騎士団の本部や貴族の邸宅などが並んでいる。まあ当然、僕の立派な屋敷もここにある訳だ」
 夕方近くになって、ライムは美しい家並みが続く東街区へとやってきていた。
「この騎士団の本部も案内したいところなのだが、シャーミアンという怖〜いお姉さんが、僕が本部に行くのを嫌がっていてね」
 騎士団の前を素通りしながらセドリックは肩をすくめた。
「きっと、僕と逢うなら二人きりになれる所がいいと思っているのだろう。実にいじらしいじゃないか?」
 さらに東に行って、ヴェルナー卿の屋敷、サクノス家の屋敷を通り過ぎたところでセドリックは足を止める。
「ここが我が屋敷だ。入りたまえ。親友である君をママに会わせないと。この時間には庭にいるはずだ」
 大きな門をくぐると、サクノス家の庭にも劣らぬ広い庭園が広がっていた。
「ママ!」
 セドリックは手を振った。
 白い花が咲き乱れる花壇の前に、清楚な雰囲気を漂わせた女性の姿があった。女性はセドリックを見ると顔をほころばせる。
「ママ、我が友、ライム君を屋敷に招きました」
 セドリックは母親にライムを紹介し、続けてライムに母を紹介する。
「こちらが僕の母だ。以前は体が弱かったのだが、トリシア嬢の医術のおかげで、今では軽い散歩ができるまでになったんだよ」
「こんばんは」
 ライムは礼儀正しくセドリックの母に挨拶する。息子と違って、セドリックの母は実にまともそうなのでライムもひと安心だ。
「今、お茶をいれてくるから待っていて」
 セドリックはライムと母を残し、屋敷の方に駆けていった。
「……あの子、迷惑をかけなかったかしら?」
 その背中を見送ったセドリックの母は、ライムにたずねる。
「いいえ」
 ライムは首を横に振る。
「今日は街を案内してもらって、楽しかったです。セドリック君は、この町に来て初めての友だちなんです」
「まあ」
 セドリックの母は目を細めた。
「あの子は恵まれているのね。いいお友達がたくさんいて」
「ええ」
 ライムは笑顔を見せる。 
「ほんとにそう思います」
 やがて、トレーを持ったセドリックがふらつく足取りでやってくる。
「僕は重い物を持つのに……うぐぐ……慣れてなくてね」
 小さなポットとカップ三人分では大した重さではないはずだが、セドリックにとっては事情が異なるようである。
「僕に」
 ライムがトレーを手に取って、あたりを見渡した。
「どこに運びます?」
「池のそばにあずま屋があるから、そこで夕日を眺めながらお茶にしよう」
 ゼイゼイいいながら、セドリックはオレンジ色に染まる池の方を指さす。
「ええ、それがいいわ」
 セドリックの母もうなずいた。
「では」
 お茶を注ぐのはセドリック。さすがに慣れているのか手つきはいい。母の分はトリシアが調合した薬草茶。あとの二人の分はラベンダーとレモンのお茶である。
「これが……お茶?」
 ライムは鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。
「お茶は初めてかい?」
 セドリックがたずねる。
「話には聞いていたけど」
 そう言ってから、ライムはカップを口に運んだ。
「……おいしい」
「お茶をいれさせても、僕は超一流だからね」
 鼻をヒクヒクさせたセドリックは身を乗り出す。
「君は月食祭までは街にいるのだろう? 泊まる場所は決まっているのかな?」
「ええっと、まだですけど?」
「それなら、うちに泊まるといいわ」
 そう提案したのは、セドリックの母だった。
「ママ、それは僕が言おうとしたのに〜」
 セドリックは額に手をやり、してやられたという顔になる。
「どう、ライム君?」
 もう一度、セドリックの母がたずねた。
「ありがとうございます」
 頬をわずかにピンクに染めてライムがうなずくと、セドリックはその手を握って瞳を輝かせる。
「この街にはまだまだ、君に見せたい素晴らしい物がたくさん残っているからね! 特に、僕関係の! きっと君は感謝するよ、僕という、きらめく星のごとき存在と出会えたことを!」
(いい人、なんだけど……)
 これから大変だろうな、と思わずにはいられないライムだった。
 
<続く>
…いかがでしたか?
なんだかんだで、この二人、意外と名(迷?)コンビかも!?