WEB限定 書き下ろし小説

トリシア、セドリックのお姫様になる?

3

「遅れてごめんなさい」
「自称美少女怪盗! ちゃんと隠れ家の場所を教えてくれないから、迷っちゃったじゃないか!」
 ライムとセドリックが姿を現した。
「地図、渡したでしょうが!」
 おしゃべりフクロウはセドリックをにらむ。
「このすばらしい僕はーー」
 セドリックは金髪をかき上げ、白い歯を見せた。
「よく物をなくす。地図も例外ではないよ」
「こ、こいつは……」
「ごくろうさま」
 トリシアは崩れ落ちるおしゃべりフクロウに、ねぎらいの言葉をかける。
「では、改めて」
 セドリックは咳払いをして剣を抜いた。
「さあ、悪党ども! 我が愛する姫君をさらうなどごんごごうだ……ごんどどうがん……ごんごんとうがん……げんごおう……」
「言語道断です」
 ライムが訂正を入れた。
「そう、それだ! いさぎよく僕の前にひれ伏すか、さもなくば戦え! ちなみに僕は強い! 戦うなら覚悟するがいい!」
 セドリックはそう言い放つと、剣を振り回した。
「い、いちおう形だけでも、戦う振りした方がいいんだよなあ? そいじゃ、ちょいとゆるめにーー」
 ヴォッグは手にした棍棒を軽く振りおろした。
 トリシアでも簡単によけられるような早さだ。
 だが、
「ぐはあっ!」
 セドリックはそれを頭で受け、白目をむいてひっくり返った」
「おい、当たらねえだろ? せいいっぱい手加減してんだぜ、こっちは」
 あきれて目を丸くするヴォッグ。
「仕方ないなあ」
 ライムがため息をつき、セドリックの剣を拾ってヴォッグの前に立った。
「僕が相手をします」
 剣の切っ先が雷のように走り、ヴォックの持つ棍棒を弾き飛ばす。
「このくらいにしておきましょうよ。主役が気絶してますから」
 ライムはヴォッグに言った。
「うわあ、やられた〜」
 ヴォッグは座り込む。
「……こんな感じでいいか?」
「はい、終わり終わり〜」
 おしゃべりフクロウが宣言した。
「これでとらわれのお姫様のトリシアは、勇敢なセドリックとその従者の手によって無事救出、と」
「お姫様って呼ばれて屈辱を感じたのは、これが初めてだわ」
 トリシアは気持ちよさそうにのびているセドリックに複雑な視線を向ける。