WEB限定 書き下ろし小説

トリシア、セドリックのお姫様になる?

5

「……ねえ。セドリックほどの勇者なら、もっと大きな冒険をすべきでしょう? こんな下水道の中の事件を解決するんじゃなく?」
「なるほど! 言われてみればそのとおり!」
 セドリックはポンと手を打った。
「……だが、大きな事件を起こして自分で解決するのはいかにも大変そうだ」
「自分で騒動を起こさなくたって、冒険が待っている場所はあるでしょ? ……たとえば、海とか」
 トリシアはとりあえず、思いつきを口にした。
「確かに、海には無限の冒険が待っていそうだね! ……でも、アムリオンには海はないはず?」
 ぱっと顔を明るくしたセドリックだが、少し考えてから首をひねった。
「大丈夫。大レーヌ川をず〜っと西に下っていけば、海だから」
 トリシアも海は見たことがないが、適当に言った。
「度重なる助言に感謝するよ、トリシア嬢! 我が従者ライム! さっそく海に向かって出発だ! まず、ママに『行ってきます』って言ってからだけど」
「ぼ、僕も行くんですか!?」
「当然じゃないか? 英雄には、その功績を語る吟遊詩人が付き添わなくてはね! ……君、歌とか楽器、できるよね?」
「できませんったら! いきなり吟遊詩人なんて!」
 ライムは思い切り首を横に振った。
「なら、旅の途中で練習だ! さあ、灰色の海が僕らを待っているよ!」
 セドリックはライムの腕をつかむ。
「せめて青い海って言ってください! 不吉でしょ!」
 セドリックとライムはそう言葉を交わしながら、下水道を去っていった。
「これでしばらく悪さもしないでしょ」
「少なくとも、この王都ではね」
 ふたりの背中を見送ったトリシアとおしゃべりフクロウは、顔を見合わせて笑うのだった。
 という訳で。
 セドリックとライムは海の冒険に旅立ち、思わぬところでトリシアとの再会を果たすのだが。
 それはまた別のお話。

……旅立ったセドリックとライムは、どこでトリシアと再会するのか?
それは、10巻を読んでの、お楽しみ!