WEB限定 書き下ろし小説

はじまりの三人組!!

第六回

「そんな! ひどい!」
 声をあらげるベル。
 だが、アンリはうなずいた。
「そうですか、仕方ありませんね。行こう、アーエス」
「ちょっと! どうしてかんたんに引きさがるのよ!?」
 ベルはアンリにいかりの目を向ける。
「当人たちがちがうというんだから、どうにもできないよ」
「ったく! たよりにならない魔法使いね!」
「あはは、よくアムレディア王女にも言われる」
 アンリは頭をかいた。
「アーエス!」
 ベルはアーエスをふり返ってせんげんする。
「いっしょに住むわよ!」
「…………はあ?」
 とまどうアーエス。
「大丈夫! あたしの家ってけっこう広いのよ! それに、あたしの友だちなんだから、うちの両親だって、いっしょに住むの、許してくれるわよ!」
 ベルはアーエスの手をギュッとにぎった。
「何だったら、わがサクノス家の屋しきに住んでもいいぞ」
 胸(むね)を張るショーン。
「サクノス家の屋しきは、ぶとう会の三つや四つが一度に開けるくらいに広大だからな! ベルの家より、ず?っとごうかな部屋に住ませてやるぞ! あははははは!」
「……あんた、関係ないでしょ」
「あのな! ここまでつき合わせておいて、今さら関係ないって言うな!」
「勝手についてきただけじゃない! この役立たずのボンクラ貴族!」
「だれがボンクラだ!」
「鏡見なさいよ!」
「……あ?っと、三人とも」
 アンリはこめかみをおさえながら、ベルたちに告げた。
「この先を少し行ったところに、『三本足のアライグマ』亭(てい)という店があるんだ。場所はすぐに分かると思うから、先に行って待っててくれないか?」
「え? でも……」
 まゆをひそめるベル。
「すぐに行くから。いいね?」
「……うん」
 アーエスが小さくうなずく。
「ほかならぬアンリ殿のたのみだ。よかろう」
「何よ、えらそうに」
 ふんぞり返るショーンに、冷ややかなしせんを向けるベル。
「じっさいにえらいのだ! サクノス家の人間はだな……」
「あ?っ! もうそれ聞きあきた!」
「……」
 三人??といっても主に二人だが??は、わいわい言いながら『三本足のアライグマ』亭を目指した。



「……本当に、これでいいんですか?」
 三人が家からはなれると、アンリは静かにアーエスの父のほうに向きなおった。
「何のことです?」
と、父親。
「あなたは、このまま自分たちといっしょにいても、アーエスは幸せになれないと思った。だから、わざとつき放すようなことを言ったんでしょう?」
「面白いそうぞうをする人だ」
 アーエスの父は、話は終わりだというようにとびらをしめようとする。
「あの子だって気がついていますよ。あなたが本当は、とても自分のことを愛してくれていることに」
「……」
 父親の手がふるえ、とびらからはなれた。
「でも、養わなくてはいけない子どもがひとりへれば、少しは家族のみんなの生活が楽になるかも知れない。そう思ったから、だまって出ていったんです」
「分かってます。そういう子なんです」
 アーエスの父はなみだをこらえるかのように空を見上げる。
「どうか……あの子を」
「ええ。できるかぎりのことはするつもりです」
 アンリはうなずいた。