WEB限定 書き下ろし小説

出逢い~星見の塔誕生

前編

「やれやれ。大人しくしていれば、巡礼に混じって教団に入り込めたものを」
 黒髪の少女は、金髪の少年と背中合わせになり、杖を構える。
「……ねえ、もし僕が本当に手を出してなかったら?」
「まあ、軽蔑していただろうな」
 少女は認め、たずねた。
「武器は?」
「変装した時に宿に置いてきた。君は?」
 たずね返す少年。
「この杖だけだ。こうなると、お前の下手な魔法だけが頼りだな」
「下手は余計」
「行くぞ!」
 巡礼の真っただ中に突っ込んで行く二人。
「レン!」
 黒髪の少女が目の前の巡礼を杖で打ちすえながら、レンに声をかける。
「え?」
 戸惑うレン。
「お前、レンというのだろう?」
 この黒髪の少女、たった一回だけトリシアが口にした名前を覚えたらしい。
「レン、他の子供たちを連れて逃げろ」
「あんたたち、誰だよ?」
「う~ん」
 金髪の少年はちょっと考え込む。
「説明すると長くなるから、また今度」
「あのな!」
「おしゃべりは後だ!」
 黒髪の少女が、巡礼の囲みを破り、レンたちのために逃げ道を作った。
「さあ!」
「あ、ああ」
「ほら、さっさと逃げるの!」
 トリシアが、レンの手を引っ張った。
「あいつら、わけ分かんないぞ!」
 街の方に向かって坂を駆け下りながら、叫ぶレン。
「でも……格好いい」
 トリシアは金髪の少年を振り返ってつぶやく。
「そうか? 結構マヌケな顔だろ?」
「レンより、ずぅぅぅ~っとマシ!」
 二人は手をつないだまま、追っ手を振り切り、傾きかけた建物に挟まれた路地へと逃げ込んだ。
 そして。
「さてと。私たちも、この危機を突破するとするか、アンリ?」
 子供たちの姿が消えた頃になると、カー・レドラル城から教団の応援が駆けつけ、少年と少女は完全に取り囲まれてしまっていた。
「賛成だけど」
 アンリと呼ばれた金髪の少年は精神を集中し、魔旋律を使う準備に入る。
「ちょっと難しいかもね、アム」
「もし私が捕まっても、お前は逃げろ」
 と、アムと呼ばれた黒髪の少女。
「それだけは死んでもお断り」
「馬鹿者が!」
「そっちこそ!」
 顔を見合わせる二人。
 そこに、赤衣の修道士たちが一斉に襲いかかった。