WEB限定 書き下ろし小説

フローラとさまよう幽霊船

「さあ! 幽霊船、乗り込むわよ!」
 フローラは謎の無人船にハシゴを渡すと、自分が先頭になって乗り移っていった。
 後に続くのは、オーウェン、スピカ、それに十人ほどの船員たちだ。
「張り切っていますねー、フローラさん」
 肩にアクアを乗せて一番後ろを歩くスピカが、オーウェンに耳打ちする。
「おおかた、幽霊船には宝があるって信じてるんだろ?」
 オーウェンは肩をすくめた。
「さすが、フローラさんのことはよくご存じですー」
 スピカが微笑む。
「それ、あまりうれしくないから」
 と、苦笑を返すオーウェン。
「今の聞こえたわよ」
 フローラは振り返ってにらんだ。
「……それにしても汚い船ね。誰も掃除しないの?」
「してないだろ、そりゃ」
 無人船の甲板はところどころ腐っていて、うかつにうろつくと踏み抜いてしまいそうである。
 そこで。
「オーウェン」
 フローラが先頭に立つように命じたのは、もちろん、オーウェンだった。
「私の前を歩くなんて光栄でしょ? 落ちて怪我なんかしないでよ。面倒だから」
「やれやれ」
 フローラに釘を刺されたオーウェンは、慎重に甲板から操舵室、つまり舵を取るための部屋を目指す。
 霧のせいで甲板は暗く、ランプの明かりでやっと足下が見える程度。
 やがて、ぼんやりと操舵室の扉が見えてくる。
「お宝はどこかしら?」
 フローラはキョロキョロとあたりを見渡す。
「たぶん一番下の倉庫かな? 宝の種類にもよるけど」
 と、扉を開きながらオーウェンが答えたその時。
「ひいいいいいいいっ!」
 船員のひとりが悲鳴を上げた。
 指さした先を見ると、そこには舵輪にもたれかかる骸骨の姿があった。
 骸骨はゆっくりと、手招きしているように見える。
「ただの骨じゃないの? 船が波で揺れてるから、動いているように見えるだけで」
 フローラは眉をひそめた。
「け、けどお嬢さん!」
 ふだんは荒くれ者の船乗りたちも、実は迷信深いもの。
 みんな、青ざめた顔を見合わせる。
「ここにはお宝はなさそうね。下に行きましょ?」
 フローラはオーウェンの背中を押して、階段の方へと向かった。