WEB限定 書き下ろし小説

王子、故郷へ帰る

2

「う~、こんな扱いを受けるとは。呪いを解いてやった恩を忘れおって~」
 ヴィレムセンスは王子を見上げてにらむ。
「いつか呪ってやる~」
 まるでアーエスである。
「君の功績は王家も高く評価するさ。君の名前を刻んだ像を城の中庭に建てて……ところで君、名前、何だっけ?」
「偉大なるヴィレムセンスじゃ! どこまで馬鹿にすれば気が済むのじゃ~っ!」
 ヴィレムセンスは両手を振り回した。
「そうそう、二代目だったね」
「知っててからかいおって! うう~、王子は意地悪じゃ! トリシアに言いつけてやる~!」
「それはやめて欲しいかな」
 と、王子がウインクしたその時。
 不意に馬車が止まった。
 国境の少し手前。
 道が狭くなっていて、見通しが悪い場所でのことだ。
「どうしたんだ?」
 王子が御者に尋ねる。
「そ、それが……」
 御者は視線で前方を示した。
 すると。
「へえ?」
 王子は膝からヴィレムセンスをおろすと、馬車から出た。
 馬車の行く手を遮るように、男たちが立っていた。
 それも、ひとりやふたりではない。
「アムリオン訪問は、お忍びのはずであったのじゃろ? それなのにお出迎えかの? そうは見えんが?」
 窓から出した首を傾げるヴィレムセンス。
「君はいい勘をしている。どうやら、出迎えじゃないようだよ」
 王子は人数を数える。
「三十人。ある意味、大歓迎かも知れないけれどーー」
 男たちは無言で武器を構えた。
「普通、これは待ち伏せと呼ばれるんじゃないかな?」
「のん気なことを! 言っておくが、呪術をかけるのには時間がかかる。戦闘には向かぬぞえ?」
 ヴィレムセンスの声が裏がえる。
「存じておりますよ、偉大なるヴィレムセンス殿。戦力としては期待しておりませんので、ご安心を」
 王子の方に、慌てる様子はない。
「そ、それもなんだか不愉快じゃが」
 ヴィレムセンスは頬っぺたをふくらませた。
「一応、聞いておく。頭目以外の者は見逃してもいい。頭目は誰だい?」
 王子が見渡すと、後ろの方にいた年長の男たちが、たじろぐように一、二歩下がる。
「……なるほど、その三人か」
 王子は目を細めた。
「見覚えがあるよ。元奴隷商人だね?」
 ヴィントールではつい最近まで奴隷貿易を行っていた。だが、法律が変わり、奴隷を売ることは禁止され、多くの奴隷商人が国外追放になったのだ。