WEB限定 書き下ろし小説

はじまりの三人組!!

第三回

「そうか」
 父は苦笑する。
「わたしの知り合いに、ちょっと変わった学校をやっている人がいる。今の学校になじめないのなら、その学校に転校しないか?」
「……ううん。いい」
 どんな学校か知らないが、どうせ転校しても、笑顔のうらで悪口を言う人間はいるだろう。
「それはそうと……」
 父はベルをだきかかえ、自分のひざにのせた。
「明日、お客様が来ることになっているんだ。あいにくと私はるすだが、お前がもてなしてくれないか?」
「あ、あたしが!?」
 おどろくベル。
「わたしが若いころに、いっしょに冒険をした騎士(きし)の、おっと、今は騎士団長(だんちょう)だが、その人のご子息がたずねてくることになっているんだ。お前とちょうど同い年でね。話し相手になってほしいんだが?」
「男の子……」
 ベルはまゆをひそめる。
「男の子はきらいよ。ばかで、生意気で、らんぼうで」
「わたしも昔は男の子だったんだがね」
 父は肩(かた)をすくめた。
「父さんはちがうもん」
「それはありがとう」
「でもその子、どうしてこの家に?」
「わたしたち商人もそうだが」
 父は説明した。
「人間というものは、どうしてもにたような立場の者だけで集まってしまうものだ。ことなる考え方やくらしをする人たちと、交流する機会はほとんどない」
「ええ」
 よく分からないが、とりあえずうなずくベル。
「だが、貴族(きぞく)も、それ以外の身分の人たちも、同じ国、同じ街に住む者たちだ。みんなが交わり、話しあうことが大切だと、アムレディア王女は考えておられるのだよ」
「王女様が?」
「貴族がわたしたち商人の生活を知るのは、決して悪いことではない、と私も思う。だから、騎士団長と相談して、ご子息に見学に来てもらうことにしたんだよ」
「……仕方ないわね」
 ベルはため息をついた。
「父さんのたのみだもん。あたし、やる」
「ありがとう、ベル」
 父はもう一度、ベルのひたいに口づけした。
 ほんの少し、潮(しお)のかおりがした。