WEB限定 書き下ろし小説

はじまりの三人組!!

第三回

 「く、口先だけ!」
 いたいところをつかれたショーンは、思わずイスから立ちあがった。
 そのひょうしに、ひじがカップに当たってひっくり返り、お茶がベルのスカートにかかる。
「きゃっ!」
 別に熱くはないが、お気に入りのスカートにうす茶色のしみができた。
「ちょっと! ひっどいじゃない!」
 こうなると、おしとやかな言葉づかいなど、ベルの頭の中から完全にふき飛んでしまう。
「あやまんなさいよね!」
「なぜぼくが、サクノス家の者たるこのぼくが、庶民にあやまらなければならん?」
 悪かったなとは思うのだが、けんかごしに出られたものだから、引っこみがつかない。
「こんなところにカップがあるのが悪いのだ」
「……ふうん」
 バシャッ!
 ベルは自分のカップを手に取ると、中身をショーンの胸(むね)にぶちまけた。
「何をする!?」
「ごめんあそばせ?」
 あぜんとするショーンに向かって、ベルはスカートのすそをつまんで一礼する。
「ここにカップがあったのが悪かったのよ」
「……ほう?」
 ショーンは自分のカップをベルの頭の上に持ってくると、さかさまにした。
 ジョボジョボジョボ?!
「!」
 頭のてっぺんからつま先まで、びしょぬれのベル。
「おや?、雨かな??」
「こ、この、へっぽこ貴族!」
 グワッシャ?ン!
 ベルはクッキーをのせていた皿を、ショーンの頭におみまいした。
 こうなるともう、つかみ合いの大げんかである。
「男のくせに、女の子に手を上げるなんて!」
「先に手を出したのはそっちだろ! それに、ぼくは男女で差別はしない!」
 そうは言っても手加減(てかげん)してるのか、ショーンが一方的にやられている感じである。
 ……もっとも、単に弱いだけ、なのかも知れないが。
「あらあらあら、仲のいいこと」
 この光景をほほえましげに見つめる、ベルの母。
 そして。
「はあはあはあ……」
「はあはあはあ……」
 二人はつかれ果てて、ようやくけんかをやめた。
「……男の子なんて大きらいだけど、特にあんたは最っ悪!」
 じゅうたんの上にすわりこんだベルはショーンをにらむ。
「こっちだって、お前みたいなきょうぼうな女の子、見たことない」
 髪の毛ボサボサのショーンは、上着から取れた金のボタンを拾いあつめた。
「帰れ!」
 ベエッと舌を出すベル。
「言われなくても!」
 それでも一応、礼儀をわすれないショーンは立ちあがると、ベルの母に向かっておじぎをする。
「奥方、今日は世話になった」
「はい、また来てね、ショーンちゃん」
 ベルの母は、何事もなかったかのようにニッコリと笑った。

 こうして。
 ベルとショーンの最初の出会いは、散々なものに終わったかに見えた。
 だが、二人とも、この時には気づいていなかったのだ。
 このところのモヤモヤした気分が、あのつかみ合いの大げんかで完全にふき飛んでしまっていたことに。
(続く)

ついに(大げんかしながらも)出会ったベルとショーン。
次回、アーエスの身に、大変なことが…!
お楽しみに!
(更新は6月頭の予定です)