WEB限定 書き下ろし小説

騎士の資格

第一回

「スー!」
 水はすぐに手足がしびれてくるほど冷たかったが、プリアモンドは真っ直ぐにスーのところを目指した。
 何度か氷のかたまりにぶつかり、押し流されそうになりながらも、プリアモンドの手はスーの肩をつかむ。

「スー! おい、スー!」
 プリアモンドはスーを抱き寄せながらどなった。
「……プリアモンド……さん?」
 スーはうっすらと目を開けた。
「うそ? 騎士様があたしなんかのために?」
 意識がはっきりしないのだろう。
 スーはほほ笑みを浮かべる。
「あたしなんか、なんて言うんじゃない」
 プリアモンドは軽くスーの頬を叩く。
「ありがと。でもダメだよ。もう足が動かないんだ。氷にはさまってつぶされたみたい」
 スーはそう言うと、また目を閉じた。
「ロープを!」
 プリアモンドの合図で、三人の騎士は力をあわせてロープを引っぱった。
 スーをしっかりと抱きかかえたプリアモンドも、片手で水をかいて早く岸に近づこうとする。
 と、その時。
「プリアモンド殿!」
 右手で上流の方を示しながら、隊長がプリアモンドに向かってどなった。
「!」
 振り返るプリアモンドの目に、巨大な氷のかたまりが飛び込んできた。
 氷のかたまりは、こちらに向かってまっすぐに流れてくる。
 割れて尖った氷がピンと張ったロープに触れれば、ロープが切断されるのは明らかだ。
 そうなると、さすがのプリアモンドでも、スーを抱えたまま岸まで泳ぎ着くのは難しいだろう。
「くっ!」
 必死にロープをたぐり寄せるプリアモンド。
 しかし。
 ガッ!
 氷のかたまりがプリアモンドの背中にぶつかり、二人の体を水が呑み込んだ。
 流れにもみくちゃにされながらも、プリアモンドはなんとかスーを守ろうとする。
 ロープをつかみ、引っ張ろうとするが手ごたえがない。
 予想通り、氷がロープを引きちぎったのだ。
 水はにごり、視界がきかない。
 自分の顔が水面の方を向いているのか、それとも川底の方を向いているのかさえも分からない。
 分かっているのは、自分がまだスーを抱きしめていること。
 彼女を救えるのは、自分だけだということだ。
 そして、息を止め続けるのもさすがに限界か、と思われたその時。
 バシャッ!
 奇跡的に、水面に顔が出た。
 肺に空気を送り込んだプリアモンドは、冷たさでしびれた手で泳ぎ続け、川岸にたどり着く。
「プリアモンド殿!」
「大丈夫ですか!?」
 騎士たちがプリアモンドの体を支える。
「私のことはいい。この子の手当てが先だ」
 プリアモンドは気力を振り絞ると、騎士たちとともに村へと急いだ。